情動と理性脳(8)
前述しましたが、交感神経は“植物的な機能”の中で、“エネルギーを発散”する自律機能の調節を担います。動物脳(情動)からの刺激には直接反応しますが、理性脳(情操)の影響を直接受けることはないため“不随意神経”と呼ばれます。しかし、交感神経へ直接影響を与えるのは動物脳(情動)だけではありません。身体各部(末梢)からの反射刺激は“動物脳(情動)を経由”せず、脊髄から直接交感神経に影響を与えます。これらの多くは『負のフィードバック』を生じます。
身体各部(末梢)からの刺激
身体各部(末梢)からの刺激に対する、身体の対応(反応)について概説します。と書き出したものの、このことを“厳密に説明する”ことは容易ではありません。
随所に、学問的誤りや説明不足を含みますが、『てのひらの会・咲夢』の皆さんに押圧法に対するイメージ的理解が得られればと・・・難解な解説は避けます。
〔疑問点は会場またはメールで問い合わせてください〕
〔身体の反射刺激への対応〕
身体各部(末梢)からの刺激に対する、身体の対応(反応)に『反射』があります。『反射』とは、感覚器官からの刺激が、中枢を経て、意識とは無関係に、効果器(筋肉など)の活動を規則的に起こす現象をいいます。文中に“中枢”とありますが、この中枢とは、集中化した神経系の中心部です。受容器からの刺激を受け、それを筋肉などの効果器へ連絡する働きをする部分で、無脊椎動物の神経節・腹髄、脊椎動物の脳や脊髄の類をいいます。中枢を“脳”と捉えないでください。
反射には、正常な反射や病的な反射など様々ですが、意識(動物脳や理性脳)とは無関係に作用します。『条件反射』と呼ばれる反射がありますが、先天的には存在しない反射が、繰り返されること(学習効果)により生じるようになります。
局所の圧覚や温度覚などへの刺激に対し、自律神経(主に交感神経)は反射的に反応し興奮します。その後、圧覚や温度覚などへの刺激を一定に保持すれば“ホメオスタシス(恒常性)機能”が働き始めます。このことを利用し、血管拡張を目的とする施術で意図的な交感神経刺激により、一時的な血管収縮を起させる“ホメオスタシス(恒常性)機能”改善法もあります。しかし、過剰刺激は反射亢進を促すことも稀ではありません。押圧法では“筋性防衛の解除”や圧加減による“反射亢進抑制法”で対応しています。『てのひらの会・咲夢』の皆さんの場合は『親子というごく自然で特別な関係』と『世界一の目』で安全に対応ができます。
〔身体の物理的刺激への対応〕
動脈の血管を押圧すれば、血管の断面積は変化します。押圧された動脈血管は圧加減に伴い血流や血圧が変化します。静脈の流れも、体位や筋肉運動の“ポンプ作用”などを利用した圧加減での計算やコントロールが可能となります。この最大の理由は、身体の物理的刺激への対応(反応)の規則性にあります。初期において、身体は身体各部(末梢)からの刺激に対し、実に単純で規則的な反応を生じます。それは、“振り子運動”のように単純で正確なものです。しかし、これらに連鎖が始まると、“二重振り子運動”のように『カオス状態』ともなります。
血管に限らず、自律神経系の多くが身体各部(末梢)からの物理的刺激に対し驚くほど単純に規則的に対応(反応)します。解説は難解となるため略しますが、押圧法が身体各部(末梢)からの物理的刺激に対する身体の対応(反応)を医学的に考慮して行なっている手技であることをイメージ的に認識してください。さらに、反射同様に身体各部(末梢)への持続的な物理刺激は“ホメオスタシス(恒常性)機能”により『負のフィードバック』を生じます。
〔生理学関係の諸先生へお願い〕
押圧法は医学的論拠に基づいて行なっております。しかし、ここでの概説はそれを逸しています。『てのひらの会・咲夢』の皆さんや一般読者にイメージ的理解を得るための手段として用いました。押圧効果はここでの理論的誤りを差し引いても十分な成果を挙げています。説明を進めるための『方便』とお許しください。
意識と無意識
“反射は意識とは無関係におきます”このことは、反射が意識しても意識しなくても生じることを意味しますし、反射が無意識に起きることも意味しています。
〔わき道・・・ここは“流し読み”してください〕
歩行反射とか起立反射と呼ばれる反射があります。歩行や起立動作中、急激に膝が曲がる事態が生じると、膝を伸ばす反射が無意識に起きます。この反射の出現は転倒回避には重要で、急に膝を曲げて座る場合には不都合となります。もちろん、正座を行なうために、急に膝を曲げても起立反射などは生じません。これは、意識が起立反射などを抑制するためです。このように反射は無意識に生じますが、正座するという意識で抑制することができます。しかし、このことは意識して反射を抑制していることとは異なります。では、“無意識に正座”をした場合はどうでしょうか。このとき、起立反射などは生じません。これは、無意識に生じる反射を意識ではなく無意識で抑制したことになります。“無意識の反射”を意識ではなく“無意識が抑制”する・・・運動機能の学習には不可欠な要素です。
〔本題に戻る〕
身体機能における、“意識と無意識”や“随意と不随意”の区別は重要ですが、用語に馴染みが薄い一般読者や『てのひらの会・咲夢』の皆さんの混同や混乱を避けるために、便宜的定義します。イメージ的に認識してください。
〔意識〕
物事を見定め、その意味を理解(認識)して、思考しながら、行動している状態。
〔無意識〕
ある事をしながら、自分のしていることに気づかない状態。
〔随意〕
意志の支配を受け、意のままになること。
〔不随意〕
意志の支配を受けず、意のままにならないこと。
人は物ではありません・・・
人の疾患に対応するとき、最も重要となることが“人は物ではない”という認識と“人を人として遇する”ことです。パソコンを如何なる心情で操作してもパソコンの動きは操作された結果に従います。しかし、“人”では一定の物理刺激に対して、局所は一定の反応を示しても、全体としては異なった反応を示します。
幼児の踵を持って逆さに吊るしたとします。遊びとして『パパ』がやっている場合は、『パパ、もう一回』と何度もせがみます。物理的に同じ刺激を与えれば幼児は同じ反応を起こすでしょうか。もし、見知らぬ他人が行なえば・・・人への刺激は 様々な条件で結果が異なってきます。人は物ではありません。〔個人差を考慮〕
“人への刺激は様々な条件で結果が異なってきます。人は物ではありません。”とまとめられ、違和感なく教師猫に誤魔化された読者は、 〔情動と理性脳(7)〕の“疑問視”や〔“お母さんからの手紙”〕を再読して、状況を再認識してください。
教師猫は個人差を考慮していません
教師猫が個人差を無視するわけではありませんが、臨床現場での教師猫には『個人差の考慮』に必要な情報収集の時間さえも、通常は与えられていません。
“人は物ではない”という認識や“人を人として遇する”ことは“患い人”と関わる治療家にとって欠くことのできない心得です。しかし、ここで論じ、説明する内容は、一定の刺激に対して千変万化に変化する、人という動物の『個人差』に対応する“個人差の解除”手段とその医学的論拠です。
〔ある脳内ホルモンの働き〕
『ドーパミン』という脳内ホルモンがあります。別名を“多幸ホルモン”と呼びます。「A-10神経」から分泌し、多幸感を与えます。かつて、「A-10神経」に細い電極を埋め込み微弱な電流を流し『ドーパミン』を分泌させる実験が行なわれました。被験者は寝食を忘れ「A-10神経」に電流を流すスイッチを一日中押し続けます。彼らのことを科学者は“幸せのボタン押し人間”と呼んでいました。現在では人を被験者とすることはできませんが、猿を使った実験や研究は進められています。物理刺激による、個人差解除手段の一例として『ドーパミン分泌』を挙げました。『ドーパミン』に酸素が化合(酸化)すると、名前が『オキシ・ドーパミン』に変わり『怒りのホルモン』と呼ばれます。脳内に『オキシ・ドーパミン』が分泌または投与されると被験者は怒り狂います。(くれぐれも情動の酸化には注意してください)
腹部指圧のエピソード
5年ほど前の出来事ですが、日本指圧専門学校3年生に『てのひらの会・咲夢』の勉強会見学参加を許可したことがあります。スタッフを養成したいと教師猫が企画したものです。事前に説明会を行い、見学参加希望者の中から10名程度を選びました。父母に指圧を指導するための『教師猫の助手』として募集したのですが、熱心なのですが指圧技術は評価に値しない程度の押圧法レベルでした。
『教師猫助手』としての技術レベルは“父母以下”なのに、各人の“自負”は相当なものでした。「指圧は修めた」と言い切る御仁もいました。「この鼻をへし折ってやろう」と一計を案じ、「腹部指圧の受け手になって、父母を指導してください」と指示しました。被験者になった彼らに、教師猫の指導で父母たちが腹部指圧を行ないました。教師猫が父母に行なった実技指導は“副交感神経刺激法”です。
「あの時は、完全に寝かしつけられた」と当時参加した咲晩メンバーは語ります。父母による指圧で副交感神経を刺激され、思考力さえ奪われたようにリラックスした自分を思い出すと、当時の思い上がりに今でも冷や汗が出るそうです。
押圧法による、“副交感神経刺激法”は、『親子というごく自然で特別な関係』や押圧法の基本習得者であれば、情動と理性脳、個人差をわずかに配慮すれば、自在に再現できる技術です。さらに繰り返すことで、腹部指圧による条件反射が生じ、安堵感は施術や施術者への信頼となり、施術はさらに容易となります。