腰椎過前屈臨床例
腰椎過前屈の臨床例について報告いたします。
〔写真:9歳男子 腰椎過前屈の施術前後〕
【愁訴】
患者:9歳男子。最初は頭重、嘔吐感と熱感が主訴で他に倦怠感などのいくつかの不定愁訴も含んでいたが全てが自覚症状だった。内科医を受診したが他覚的所見に異常は認められず心因性疾患と診断され、発症時間は登校直前が多く、次第に不登校となった。両親及び学校関係者から、かなりヒステリックに不登校児として対応され、過呼吸や嘔吐を繰り返すようになった。医師からは頭痛薬と吐き気止め他に整腸剤が処方されていた。
【所見】
9歳の低身長男子には稀だが、立位で典型的な腰椎過前屈(治療前の写真参照)を示していた。
【対応】
遠方まで有名医師を訪ね、母親もノイローゼ気味、親族による強引な説得による来院などの事前情報により変則的な対応を取りました。メモを取り出して説明をしようとする母親に「先入観なしに指圧師としての所見と症状改善の可能性を見極めます」と問答及び問診を拒否しました。
施術後に、施術前後のポラロイド写真(掲載写真)を示し腰椎過前屈について説明しました。
母親を納得させたのは腰椎過前屈の説明より、「僕、お腹すいた」という一言でした。
不登校原因を担任に説明するための資料とし、母親の希望によりポラロイド写真を貸し出す。
【施術部位及び施術時間】
左右の肩甲間部及び肩甲下部を5分弱、腹部10分弱、合計施術時間15分弱。
施術、ポラロイド撮影、腰椎過前屈の説明、学校対策などを含め所要時間30分弱。
腰椎過前屈患者の健康管理
【患者発見・・・視診の習慣】
近年、腰椎過前屈患者の増加と発症年齢低下が観察されます。初期症状に整形外科領域以外の愁訴が多く、整形外科領域以外の検査結果に異常がなく、徐々に自覚症中心の不定愁訴に移行し、心因性疾患と誤認されやすい。また、幼児体形と誤認され放置されるケースも稀ではありません。視診による検査で容易に発見できます。容易な他覚的検査で患者や家族に告知することができ、指圧効果を最大に発揮できる疾患です。視診の習慣を持ってください。
【身長期の管理】
腰椎過前屈の場合には脊柱側弯症のような特徴(高身長の女子に高率に発症)は観察されないようですが、成長期の患者の場合は脊柱側弯症同様に春から夏にかけての"身長期"に悪化が当院では観察されています。十分な身長期対策と患者への指導や管理が大切です。
前足の開放と脳の進化
私の小さな治療室に実に様々な病状の方が来院されます。臨床を行なっていると、様々な疑問にぶつかります。現生人類(Homo sapiens)は直立二足歩行を獲得した結果、前足が自由になった。この自由になった前足を手(腕)として使用することにより、著しく大脳が発達したと考えられている。しかし、前足の解放が真に著しい大脳の発達の原因なのだろうか?
人類と他の霊長類との手指操作の違いは母指対立が可能か否かだけです。地上に降りた人類と樹上生活を続けた他の霊長類とでは、把握動作の頻度はどちらが高いのだろうか?500万年以上の時間を共有し様々に進化した類人猿のなかに、著しく大脳が発達した種が出現しなかった理由を「前足が自由になった結果、人の大脳は著しく進化した」という理論のみで説明できるだろうか?脳の発達が単に手指操作に由来するならば、なぜ、全ての現生人類がミトコンドリア・イブを祖とするのだろうか。数百万年の時間が育てた進化であれば、多種多様の人類が出現する方が自然ではないだろうか?臨床の場で自律神経失調症や慢性腰痛患者と相対しているとこんな疑問が生じてくる。自律神経失調症や慢性腰痛症と人類の脳の発達、無関係のようなことが頭の中で絡み合ってくる。人類は、単関節筋群の進化に伴い二足歩行を獲得し、さらに、立位姿勢保持にほとんど筋力を必要としない高度な抗重力機能を獲得している。
二足歩行の獲得と腰椎前屈
「指圧師ごときが口をはさむな」とお叱りを受けそうですが、現生人類の祖(ミトコンドリア・イブ)に生じた突然変異は、遺伝的要素を含む腰椎の前屈だったと考えます。腰椎が前屈したミトコンドリア・イブは周りの人から「この子変な子だよ。立たせようとすると後ろにこけるんだよ」「つまずく子どもはいるけど、ひっくり返る子どもは初めてだよ」と笑われたかもしれません。しかし、回りの立位行動を真似て、ミトコンドリア・イブが立ち上がったとき、立位姿勢保持にほとんど筋力を必要としないまでの高度な抗重力機能を獲得したと考えます。この高度な抗重力機能の獲得は運動エネルギーの消費を著しく抑えます。ミトコンドリア・イブに生じた遺伝的要素を含む腰椎前屈という突然変異により獲得した高度な抗重力機能。さらに、その結果節約されたエネルギーが大脳を発達させ養うのに十分だった為だと考えています。
悪戯に付き合ってください
当院を訪れる様々な患者に抗重力機能のアンバランスがみられます。腰椎過前屈患者の施術前後の写真をイタズラ半分に重ねてみました。
写真にカーソルを重ねてください。施術前から施術後へ変化します。この姿勢は撮影時に患者自身に『最も楽な立位姿勢』を撮影したものです。施術後に施術前の姿勢を要求すると患者は苦痛を訴えます。もちろん施術前に施術後の姿勢を要求しても同様に苦痛を訴えます。もし、この患者に施術を行なわなかったとすれば、当然ですが、患者は施術前の姿勢で日常生活を送ります。
施術前姿勢と施術後姿勢では立位姿勢を維持するために消費されるエネルギーは著しく異なると考えます。人類の脳の進化はともかくとして、エネルギー消費の最も少ない立位姿勢が確保できないことが、多くの疾患の誘因や、自己再生力低下の一因となりうると考えます。