破壊と再生 ~ミリとミクロンレベルの破壊と再生~
肩こり患者に、患部への強度な叩打や圧迫が多用される。患者自身が望むケースも多く、自覚的改善は認められる。しかし、検査機器等による他覚的診断にて改善が認められるケースは多くはない。
生体は様々な刺激に対応し、様々な防衛反応を起こす。肩こり患部に対する強度な叩打や圧迫に鎮痛効果や快楽効果が生じる理由は、一般に論じられる"血流改善による疲労物質の除去"などではない。脳が組織破壊に伴う苦痛刺激に対し防衛反応として、強い鎮痛作用と快楽作用を持つβエンドルフィン(脳内ホルモン)を放出させたためである。
骨格筋は筋線維(直径約0.1mm)の集合体で、筋線維は筋原線維(直径約1µm)の集合体である。さらに、筋原線維はアクチン(直径約7nm)とミオシン(直径約12nm)で構成するサイコメアの集合体である。
破壊に対する再生の様子は、その破壊レベルにより異なる。
〔µ=マイクロ=ミクロン=百万分の一。1µm=千分の一ミリメートル〕
〔n=ナノ=十億分の一。1nm=千分の一マイクロメートル=百万分の一ミリメートル〕
サイコメアによって構成される筋原線維レベル以下の破壊では、完全再生以上の独特の再生である『超再生』を生じる。この再生は筋力アップやリハビリの為のトレーニングに応用される。しかし、筋線維レベル以上の破壊では、不完全再生が生じ、線維芽細胞等の出現により筋肉はその特性を失う。
患部への強度な叩打や圧迫の多用により、患者の自覚には一時的改善が認められるが、MRI等の検査器機による他覚的診断には炎症等が認められる。顕微鏡レベルでは、過剰な刺激で著しく破壊されて、その後、繊維化した組織に置き換えられ、弾力性や柔軟性を失なった筋線維が認められる。
某高校バスケット部のエースが体調不良を訴えた。血液検査の結果は極度な貧血であった。
発症原因は「裸足で練習を行った」という意外な結果だった。練習による足底への衝撃で多量の赤血球が破壊され、その結果、日常生活にも支障をきたす程の全身性貧血が生じた。
全身の細胞に張り巡らされた血管網、その総延長は10万km、その構造は各部位で様々に姿を変える。10万kmをわずか20数秒で巡る血液は、大動脈で毎秒1m、下大静脈で毎秒25cm、さらに毛細血管では毎秒1mmに流速を変える。総延長10万kmの血液循環。その主役は、光学顕微鏡下では僅かな刺激で消失または出現したように見え、赤血球さえ変形しなければ通過できない微細な毛細血管である。
血液循環に対応するには、毛細血管レベルの“一方通行ではない”血流への認識も重要になってくる。
有資格者は無資格者と区別されるべきである。単なる“有資格か無資格か”の法的区別や法による
保護ではなく、有資格者は自らの持つ“知識や技術”で明確に区別されるべきであると考えます。