第11回 押圧操作(加圧動作)
圧表示(加圧加減の基準)
様々な指圧法や指圧認識により加圧加減は異なります。さらに、圧の強弱を表示(圧表示)する基準も異なっています。しかし、圧の強弱を表示(圧表示)する基準に物理学的な単位面積当りの圧力を用いることはあまりありません。国の基準では、軽圧(気持ちがいいと訴える程度)・快圧(幾分痛いと訴える程度)・強圧(できる限り忍耐させる程度)という被術者の自覚表現に基づく表示が行なわれています。
圧表示認識
指圧の圧表示に対する認識は各人の目標とする施術レベルや施術法に応じた認識でよいと考えます。国家資格の取得が目的であれば、国の基準に基づく表示を順守し、保険行為従事者として慰安行為を目的とするのであれば、被術者の自覚(お客の求め)に応じることが最優先されます。しかし、医療行為従事者を目標とする場合や指圧を医療行為として用いるのであれば、圧表示には医学な根拠に基づく他覚的圧表示が不可欠です。他覚的圧表示が欠ければ医療行為の根拠を欠くことになりかねません。
押圧法の圧表示認識
押圧法では、全ての診断および治療を他覚的判断に基づいて行ないます。ですから、圧表示においても他覚的表示を用います。他覚的圧表示として、最も正確なのが物理学的な単位面積当りの圧力表示だと考えます。しかし、押圧法上級者が物理学的表示を用いることはありません。本講座(押圧法の訓練)において物理学的表示を用いることがあるのは、押圧法認識が浅い受講生に対する、伝達法としての便宜的手段です。押圧法における圧表示は生理学や病理学に基づく他覚的診断を基準とする圧表示となり、軽圧・快圧・強圧などの用語はあまり用いません。 詳細は指圧理論(別項)で解説しますが、指圧の対象物が物ではなく人であり、押圧法は患者に施術する医療行為であることが根本的な理由です。
押圧状態と圧迫状態の区別
押圧法では、加圧状態を器官の生理的変化を基にして押圧状態と圧迫状態に区別しています。加圧により目的器官に対し、目的とする生理的変化が生じる状態を押圧状態と呼びます。さらに、押圧状態を継続的に可能とする範囲の圧を押圧圧と呼びます。押圧状態の域値を超えれば圧迫状態となります。圧迫状態に至る圧を圧迫圧と呼んでいます。これらは、医学に基づく他覚的診断を基準とする圧表示ですから学問的には物理学的表示も可能です。しかし、個人差のある生体においては、これらの物理学的数値が一定でないことや、押圧法は手指以外の器具を用いない手技であり、手指による診断と治療を旨とします。押圧法の技術習得においては物理学的圧表示を使用しないことを認識してください。
押圧認識のための他覚的圧表示
押圧認識のため押圧圧(押圧状態)と圧迫圧(圧迫状態)をあえて、物理学的圧表示を行ないます。
血管に徐々に圧を加えると、血管は徐々に変形し閉塞します。変形開始から閉塞寸前の圧を押圧圧、閉塞閾値以上の圧を圧迫圧と呼びます。上腕動脈の加圧による変化(変形から閉塞)を基に押圧圧と圧迫圧を物理的圧表示により区別してみます。加圧する母指の加圧面積を5cm2、被検者の最低血圧を80mm/Hg、最高血圧を120 mm/Hgと仮定します。この時上腕動脈を変形させるために必要な圧力は108.8g/cm2以上で閉塞に必要な圧力は163.2g/cm2となります。ですから、この場合の上腕動脈に対して押圧圧とされる圧力は片手母指圧(5cm2)で544gから816gまで、両手母指圧(10cm2)では1088gから1632gまでとなります。片手母指圧で816g(両手母指圧で1632g)以上の圧力は、上腕動脈を完全に閉塞させるために圧迫圧と判断されます。
押圧法の加圧は押圧範囲
圧迫法では、日常的に押圧範囲をはるかに超えた加圧が行なわれているようです。被術者の慰安的な求めに応じる必然性が強調されますが、国家資格を有する医療従事者の立場からは疑問が生じます。域値を無視した刺激、時に数10kgの圧を自支もせずに患者に施術する危険性が軽視されています。押圧圧と圧迫圧とでは血流に対する物理的作用も異なります。押圧圧による血流速度の変化と圧迫圧による血流停止が生体に与える作用は異なると考えます。勿論、生体に対する加圧効果を物理作用のみで判断すべきではないと考えます。しかし、日常的に行なわれる域値をはるかに超えた圧迫圧での圧迫効果には疑問が生じます。押圧範囲でなければ押圧法の効果が望めないばかりか、患者破壊が生じます。医療従事者としての(患者を守る)知識や意識を欠いた手技やその習得は論外です。
押圧姿勢(加圧動作)
最大スタンスからの押圧操作最終段階である加圧動作について説明します。押圧法上級者は、流れるようなリズムで移動動作から加圧動作、さらに次の移動動作へと移っていきます。それらの全ての動作が支点力点を定めない操作で、体幹や四肢操作が同時に進行していきます。ゆえに、初心者には判別さえ困難なのです。しかし、押圧法は移動動作と加圧動作を明確に分離しています。加圧動作が加圧開始から終了まで、加圧操作以外は行なわないことを十分に認識して基本操作を習練してください。
加圧動作は垂直に行ないます。加圧を特定の筋力(支点や力点)で行なわないように注意してください。加圧開始姿勢と加圧終了姿勢が並べてあります。この写真の体幹と四肢の動作を見比べ支点や力点を定めない加圧操作を読み取ってください。加圧開始姿勢と加圧終了姿勢の右上肢と側腹部がつくる空間の変化や左足趾部の変化は容易に読み取れると思います。体幹と四肢の動作を読み取り、手指操作を加え、押圧操作の習練に励んでください。〔各自の判断は厳禁です:質問は担当講師へ〕
読み取りヒント
写真にカーソルを重ねてください。加圧開始姿勢から加圧終了姿勢に変化します。
〔D-E〕と〔H‐I〕の関係、〔A〕・〔B〕・〔C〕・〔G〕・〔J〕・〔K〕にも注意してください。あえて、写真に記号を入れませんでした。HPの説明では記号を使用しますが、指圧研究会・咲晩スタッフ養成講座では部位用語を使用します。部位は解剖学的に正しい用語で覚えてください。