職人の脳について
人の脳は健康に生まれても未熟です。学習は人類(脳)の定めとも言えます。日本人が自在に日本語を駆使するのは日本語を学習したためで、日本人という遺伝子とは無関係です。生命維持に不可欠な、体温の調節や睡眠のリズムさえ、原始反射消失(生後約2~3ヶ月)までに学習が必要なのです。
乳児は、授乳中に休みを入れ、親(保育者)の顔を見ることで、親とのコミュニケ-ションをはかります。 このような動作は、現生人類独自の動作です。さらに、親を含む周囲の人とのコミュニケーションが乳児の成長に大きく影響します。コミュニケーションが不足した乳児は心身の発達に著しい遅れが観察され、完全に絶たれた場合は生存さえも危ぶまれることが近年報告されています。これも人類の特徴です。
「技術は体で覚えろ」と聞きますが、“体で覚える”とはどういうことでしょう。
算盤の上級者は「数字を見ると答えが浮かぶ」と言います。その証拠に、彼らは暗算であっても、答えを上の位から書いていきます。このときの、脳の様子を知るために、右脳と左脳の血流量を比較すると、上級者は、初級者に比べ、著しく右脳の血流量が増加します。上級者は右脳も駆使しています。
“体で覚えた技術”とは、左脳と同時に右脳を働かせて行う技術のことです。
左脳だけの指圧では、未熟で“体で覚えた指圧”とは、程遠いものになります。
正しい楷書が書けて、美しい草書が書けるのです。幼児の絵と、ピカソの芸術は異なります。抽象画の巨匠ピカソが習練のために描いた写実画のデッサンの枚数は、半端な数ではないと言われています。
抽象画の基本や基礎にも写実画のデッサンは不可欠です。
職人の脳を作るには、「手本を見習い、または盗み、ひたすら練習に励む。それが秘訣」と言われます。それは、多くの職人の仕事には“見習える結果”即ち、比較できる結果があるからです。しかし、指圧は少し異なるようです。指圧の場合、生じた結果の“差の原因”を見極めることが、困難なのです。