01・正常な未熟児
正常な未熟児
一般に体重3kgで生まれた赤ちゃんを未熟児とは呼びません。もちろん、人の出生体重としては正常です。しかし、人の赤ちゃんは、霊長類(人やサルの仲間)のなかで最も未熟な状態で生まれてきます。なかでも運動機能は簡単に見分けられるほど未熟です。人は言語を駆使する動物ですが、人の言語能力は本能ではなく、学習によるものです。すなわち、正常な人の赤ちゃんは将来“言語を駆使する”動物ではなく、将来“言語を駆使する能力を持つ”動物です。ですから、言語能力の学習過程で、学習条件を欠いた対応をされれば、将来、言語を駆使することは不可能となります。
人の持つ能力を本能的能力と学習的能力とに区別して対応することは極めて重要です。脳性麻痺児の運動機能障害改善の礎とも考えています。他の霊長類と比して未熟な状態で生まれる人の赤ちゃん。体重3kgで生まれた赤ちゃんを正常な未熟児として対応すべきとも考えます。
胎児としての限界
人の赤ちゃんが他の哺乳類(有胎盤類)と比べ未熟な状態で生まれる理由は、人が直立二足歩行を行ない巨大な脳を持っていることにあります。直立二足歩行の獲得による骨格変化(進化)が母体の容積や産道を狭め、巨大化した脳の容積が胎児としての限界サイズを定めました。さらに、脳神経細胞の持つ特異性が未熟な出生を余儀ないものとしました。
犠牲にされる骨格筋
人の赤ちゃんが未熟な状態で生まれなければならない最大の理由は、脳(脳神経細胞)が持つ特異性にあります。成人の平均的な脳の重量は1300gと体重の2%以下ですが、酸素消費量は25%前後となります。さらに、短時間の酸素や糖質の欠乏で脳(脳神経細胞)は死滅します。胎児の間は母体から供給された酸素や糖質を出生後は直ちに自力で補給しなければなりません。そのためには肺(呼吸器系)胃腸(消化器系)心臓(循環器系)等の機能が不可欠となってきます。胎児としての限界サイズでこれらの条件を満たすために、最も優先順位を下げられたのが骨格筋です。
人の赤ちゃんの状態
人の赤ちゃんは未熟な状態で生まれ、生後、様々な能力を獲得していきます。ここで重要なことは様々な能力が本能ではなく、学習により獲得しなければならないことです。
生命維持に不可欠な呼吸や体温調整さらには睡眠までもが本能ではなく、生後の学習により獲得されています。過酷なことに、生命維持に不可欠な能力の多くがタイムリミット付きの原始反射です。生存には原始反射消失以前にこれらの能力獲得が不可欠となります。
過酷な学習条件
人の赤ちゃんの運動(推進機能や抗重力機能)学習獲得にタイムリミットはありませんが、
骨格筋の発育優先順位が低いため筋力が弱い。
運動神経系が発育するのに15年もの歳月が必要。
高度な抗重力機能が必要なのに、低レベルの推進機能さえ不備。
陸上生活のため地球の重力を軽減できない。
骨格筋は不動性萎縮が顕著。
等の直接的原因や様々な間接的原因により、運動機能の学習獲得は過酷ともいえるほど多くの劣悪な条件にさらされています。
劣悪条件の認識
人の能力を本能と学習とに区別し、人の多くの能力が生後の学習により獲得される学習的能力であることを学ぶことや、体重3kgで生まれた赤ちゃんを未熟児と呼ぶのは医学的には誤りですが、『正常な未熟児』という認識し対応することにより、脳性麻痺児の運動機能獲得や運動機能改善に対応する対応法の根本認識が著しく変化すると考えます。これらは従来認識されずに見落とされた悪循環の防止や良循環へのスタートとなると考えます。