情動と理性脳(1)
病を治す
『病を治す』ために、病気・治る・自然治癒・自然治癒力・治す・治療・治療法などの本質を掘り下げる必要性を感じます。さらに、これらを医学的理論で裏打ちし、再現できる技術として確立すべきと考えます。押圧法では、『病を治す』ために“人を知る”ことを重視します。これから概説する内容は、人を知り、母心を持って“個人の病を治す”押圧法技術の根幹となるものです。私達が対応しているのは、物ではなく人であり、十人十色の個人です。『てのひらの会・咲夢』の皆さんの、押圧法早期上達のため、イメージ的に理解していただくことを望みます。
“人を知る”ことは、“個人の病を治す”ためのキーワードとなります。人が単なる哺乳類の一種ではなく、“人であるがゆえ”に生じる多彩な疾患。他の哺乳類の場合には、“考慮する必要の無い”『個人差』への配慮は、“人であるがゆえ”や人独自の“理性脳”とその下に潜む“動物脳”との摩擦によって生じます。
人の脳のしくみ
脳は、生物進化において“継ぎ足し”を重ねた建物のような経過をたどりました。頂点に達した『人類の脳』は、典型的ともいえるほどの“しくみ”を備えています。その様は“バージョンアップ”を重ね、周辺機器に埋もれたパソコンのようです。
ここでは、“自律神経失調症”に代表される『身体のホメオスタシス機能』の乱れの原因究明や押圧法認識に必要な“人の脳のしくみ”について概説します。
ここでは、脳を進化(脳の構造と働き)に沿って、『植物脳』・『動物脳』・『理性脳』に分類し説明します。〔脳の解剖学的な部分名称を記憶する必要はありません〕
【植物脳】
主として、『脳幹』と呼ばれる部分〔参照:脳幹について〕を指しています。脳から大脳半球と小脳とを除いた部分で、ホルモン中枢、自律機能の総合中枢です。生命維持の根幹を担い、植物脳のみで“植物人間”状態での生存は可能です。
【動物脳】
主として、『大脳辺縁系』を指します。大脳半球の内側面で、辺縁葉と呼ばれる間脳、脳梁を囲む部分と海馬体、扁桃体などを含め『大脳辺縁系』と呼びます。 解剖学的な意味での大脳辺縁系とは多少異なりますが、運動機能と共に本能や情動を支配する脳という意味で『動物脳』と呼んで分類します。
『動物脳』とは、最も原始的な感情である“情動”に従い自律神経を支配する脳と捉えてください。言い換えれば、自律神経は、最も原始的な感情である“情動”によって支配され、“情動”には、ホメオスタシス機能を妨げる『正のフィードバック』が備わり、不随意の自律神経を“容易に交感神経緊張状態”に導くといえます。
〔備考:情動について〕
情動は、動物の本能的な感情で、瞬時に自律神経に作用し、交感神経を優位(緊張状態)に導き、さらに『正のフィードバック』を活性化させて、“本能的感情”の原因改善、感情の沈静、目的達成などまで静まらないといった “弱肉強食”の生命活動においては不可欠な役割を担っています。すなわち、個体や種の生存の基本をなす自律的生命活動の根本に関わる感情です。
動物脳と情動の関係を強調しましたが、動物脳にも、“副交感神経優位”に導く感情もあります。食欲や睡眠欲などに関与しますが、“じわーっとゆっくり”伝わるホルモン伝達の特徴を表す「お腹がすいた」とか「眠い」という感情です。しかし、この感情も一定限度を超えると、“情動と類似した作用”を発揮して、交感神経を優位とし『正のフィードバック』を生じさせます。情動を抑制する力はありません。
【理性脳】
主として、『大脳新皮質』を指します。大脳半球の表層を形成し、思考や情操などの高次の機能を担い、人と動物とを区別する“理性”を支配します。直接的には『自律神経』や『身体のホメオスタシス機能』の乱れに関わることはできません。しかし、情動の“本能的感情”によって出現する言動を抑制することができます。
感情について
感情とは、物事に感じて起る気持で精神の働きを『知』・『情』・『意』に分けた時の“情的過程全般”を指し、『情動』・『気分』・『情操』などに分類します。
【情動】
情動とは、動物的な生命活動に重要な、動物の“本能的感情”です。
〔随所で概説を加えていますので、参照してください〕
【気分】
気分とは、不安定で定まらないが、一定期間持続する、比較的弱い感情です。
〔ここでは、説明を略します〕
【情操】
情操とは、『道徳的』・『芸術的』・『宗教的』など文化的で社会的価値を具えた、人独自の複雑で高次な感情です。
動物脳と理性脳の摩擦
人の『理性的な言動』は、人が“人間らしく”社会生活を営むために不可欠です。人が本能的感情に従い、『情動的な言動』に走ったら、社会は破壊するでしょう。
人が人間らしく生きることは、常に“情動”を抑え、『理性的な言動』を行なわなければなりません。このことは、動物脳と理性脳(感情と言動)に摩擦を生じます。
人が、“人間としての営み”を行なうための、人独自の“理性”とその下に潜んで本能的な要求を突きつける“情動”との摩擦は、常に『ストレス』となって現代人を襲います。交感神経に『正のフィードバック』を生じさせ『異常緊張状態』へ導き、『自律神経失調症』へと誘うものの正体、それが動物脳と理性脳の摩擦です。