第20回 押圧法概論(3)
押圧認識
国は、あん摩・マッサージ・指圧を三法の手技と呼び、指圧はその一法としています。手指を用いて圧す手技が指圧という認識で、あん摩・マッサージ・指圧の専門学校の指導もこれに準じています。しかし、これは法制化後に拡大解釈された指圧認識です。疾病治療専門の手技である、本来の指圧(押圧法)からは“かけはなれ”、施術効果の科学性どころか、医学的安全性の確保もままならない認識です。
本来の指圧である押圧法では、施術の安全確保のため押圧操作を必須とします。押圧は『押す』ことで押圧操作とは『押すための操作』です。『押す』と『圧す』を明確に区別し認識してください。
〔押すと圧すの区別〕
押圧法習得のためには『押すと圧す』の区別は不可欠となりますので、具体的に説明します。たとえば、壁を押していれば『押圧』ですが、圧していれば『圧迫』となります。加圧姿勢のみで壁を押しているのか圧しているのかの区別を判断することは困難ですが、これらは壁が倒れた時に明白になります。押圧では壁のみが倒れ、圧迫では壁と共に加圧者自身も倒れます。このことで、加圧動作中に自分を自身で支える“自支”がなされているか否かが明確になります。加圧動作中に、自分を自身で支える“自支”がなされているか否かで、『押すと圧す』を区別することができます。『押圧』に“自支”は必須となります。
自支認識
加圧中に、“自支”がなされているか否かにより、『押すと圧す』を区別します。“自支”がなされていれば『押圧』で、“自支なき加圧”は『圧迫』です。その操作を『圧迫操作』又は『圧迫法』と呼び、手技としては“あん摩の圧迫操作”に区分されます。しかし、『あん摩の圧迫法』は、あんま師自身が“危険が多い”と敬遠する手技です。医療関係者が通常『圧迫法』といえば、出血のための『圧迫止血法』を意味します。
あん摩・マッサージ・指圧の専門学校学生に、“押圧操作の自支認識”というより、『押すと圧す』の区別というか、『圧迫意識』さえ欠けているの・・・と感じられることがあります。自動車学校で信号について「青色の灯火の信号は直進し、左折し、右折することができます。進めという意味ではなく歩行者や他の車などの状況が良ければ進んでも良いという意味です」と教わり、暗唱できるまで学習する生徒や暗唱を要求する教官は少ないでしょう。常識的に交通信号の知識は幼稚園レベルで習得しています。さらに日常動作において、(免許習得年齢に達する以前に)信号に対しては、思考しなくとも身体が反応する習慣が習得されていると考えられます。
教師猫の実技教官であった門間先生は、「ここは、コンクリートの上に薄いじゅうたんを敷いただけです。そのことを意識し注意して押さなければ、容易に骨折を生じます」と加圧による危険性を諭されました。自支のない、“圧迫操作による加圧”は危険な行為です。しかし、教師猫が、“自支のない加圧行為”の危険性を力説すると、“大人に赤信号の危険性”を説くが如く軽んじられ、嫌がられます。疾病治療専門の押圧法に危険回避技術は不可欠です。押圧法習得の一歩は“自支認識”を持つことから始まります。
自支の確認
自支の操作は骨格筋の鍛錬(筋力)ではなく、身体のバランス操作で行ないます。さらに押圧法では、支点や力点を定めない加圧動作を行ないますので、個々の基本的な自支操作のみならず、複合的な身体操作による自支操作の訓練が必要です、〔把握動作や完全母指対立〕の習得も欠かせません。
“自支の確認”と題しましたが、自支認識があり、自支の習練を行なっていれば“自支は習得”できます。ことさら、“自支確認”の必要はないようですが、スタンスも安定し、片足立ち姿勢や移動動作、さらに、“加圧動作直前”までは十分に自支しているにも関わらず、加圧が始まった途端に自支が崩れてしまう。といった(時に施術者自身も気付かぬ)意外な落とし穴があるようです。この動きによる加圧は、『圧迫』となり、その操作は『圧迫法』となります。圧方向を定めた圧加減や弛緩中の骨格筋に対する一定圧の持続が困難なばかりか、『復元圧』が必要です。最終操作まで自支しなければ『押圧』とはなりません。
〔復元圧〕
復元圧とは、自支ができず、圧迫状態となった姿勢を施術者が復元する時に生じる“反作用”によって被術者が受ける圧を呼びます。圧迫後の姿勢復元に付随する力学的作用です。復元圧は、自支がなく圧加減の困難な圧迫の後に、さらに大きな圧を被術者に衝撃的に与える結果を生じます。この危険性をスタッフ養成講座の受講生諸君に説くことは、蛇足と言うより、あまりにも失礼なので略します。
復元圧を治療に必要な最大加圧とする『スタンプ圧法』がありますが、筋性防衛が激しく、加圧効果より叩打効果に近い効果を持ちます。被術者は突かれて痛く、エンドルフィン分泌による効果が出現します。『スタンプ圧法』とは、正式な圧法用語ではなく、揶揄するために一部で使用している造語です。
自支は認識ばかりでなく、確認が必要です。訓練中は常に自支確認を怠らないでください。
押圧による加圧は反作用です
押圧法では身体に加えた圧の作用(加圧によって心身に生じる様々な現象)を巧みに疾病治療に利用しますが、被術者の身体に加える圧は、施術者の押圧操作による加圧ではなく、施術者の押圧操作によって生じる反作用によって生み出される圧です。〔押圧操作(移動動作)〕の移動終了姿勢が加圧動作開始姿勢となります。ここからの、『圧迫』と『押圧』を説明します。明確に区別して、認識してください。
〔圧迫〕
移動終了姿勢(加圧動作開始姿勢)から、上記の“意外な落とし穴”のように自支が崩れてしまったら、施術者は重力の方向に倒れ、ボールは圧迫され、姿勢の復元時にボールに復元圧がかかります。
〔押圧〕
移動終了姿勢(加圧動作開始姿勢)から、初級者では 〔上肢のしめ〕の肘関節伸展操作を行ないます。肘関節の伸展操作により、体幹には抗重力方向の力が生じます。この体幹に対する抗重力方向の力が加圧時の自支を可能とする自支力となります。さらに自支力の反作用となる重力方向の力が生じます。肘関節伸展操作が自支やボールへの加圧を可能とし、圧方向を定めた自在な圧加減を生み出します。