第25回 押圧法概論(8)
『血液循環は、生命活動に不可欠なもの』とか『血液循環をよくすることは非常に大切だ』と言われます。無論、このことに異議があるわけではありませんが、38億年前に地球に出現した“生命”には、血液循環はおろか、血液さえ存在しませんでした。最初の生命から人までの“進化?”を教師猫的に概説します。指圧師として施術に必要な“物理学的知識”をイメージ的に読み取ってください。
血流の役割
38億年前に原始の海に出現した“単細胞生命”には、原始の海に溶けていた『酸素や栄養分』が体内に染み込み、(生命活動の結果生じた)『二酸化炭素』などの代謝産物が、体内から原始の海に染み出て行った。細胞膜を介し物質交換を行なう“単細胞生命”に必要な物は“豊かな海”と“その流れ”でした。
疾病治療、特に手技療法では、多く語られる“豊かな海”より、あまり語られない“その流れ”による物質代謝のメカニズムのほうが重要と考えます。いかに“豊かな海”が存在していても、“流れ”がなければ、“単細胞生命”は、自らの体内から染み出た『二酸化炭素』などの代謝産物に囲まれ、『酸素や栄養分』の染み込みが阻害され、結果として“単細胞生命”は『窒息死や餓死』に追い込まてしまいます。
38億年前に地球に出現した“単細胞生命”は、無条件に与えられた“豊かな海”と“その流れ”に育まれ生命活動を営むことができました。しかしその後、単細胞から多細胞に進化した多細胞生命は、直接(細胞膜のみを介して)、“豊かな海”と“その流れ”に接することが不可能となりました。多細胞生命は“豊かな海”と“その流れ”を自らの機能で確保しなければならなくなりました。
組織に酸素や栄養分を供給し、二酸化炭素や他の不要物を受け取るのは血液ですが、実際の代謝を担っているのは“その流れ”すなわち『血流』です。臨床現場を含む多くの医療教育機関で、60兆個におよぶ細胞が行なう生命活動の“化学的理論”を始め、血液循環不良がもたらす、様々な“疾病原因や因果関係”などについては教えられています。しかし、血液循環(血流)の“物理学的”知識習得不足を痛烈に感じます。教師猫がこのような発言をする論拠は、日常的に臨床現場で、“血液循環の改善法”として行なわれている物理療法に、“無知なるが故、行なえる手技”と感じるものが少なくないからです。
物質代謝模型図
〔押圧法概論(7)〕で述べましたが、血管は総延長は10万kmに及び、太さは細動脈で直径平均40μm 、毛細血管の平均直径はわずか百分の一ミリメートルです。物質交換のための有窓性毛細血管の穴は十万分の一ミリメートル程度です。以下、物質代謝模型図を示し、概説していきます。
【開放血管系】
開放血管系とは、動脈の末端から血液が組織中に出て、静脈の先端から吸収される循環器系を呼ぶ。開放血管系には、動脈と静脈の間に“毛細血管”が存在しないため“血液と組織液”の区別はない。
【閉鎖血管系】
閉鎖血管系とは、動脈と静脈を『毛細血管』でつなぐ(脊椎動物の)循環器系を呼ぶ。血液の全成分が血管外に流出することがないため、“血液と組織液”の成分は異なる。
【閉鎖血管系の物質代謝順路】
〔酸素と糖の順路〕
呼吸器や消化器で取り込まれた酸素や糖は心臓で加圧された血流により動脈を経て毛細血管に至る。毛細血管の穴などから血管外に染み出す組織液により、細胞周囲へと送られ、細胞内に染み込む。
〔二酸化炭素の順路)
細胞の生命活動の結果生じた二酸化炭素は、細胞内より染み出し、組織液の流れに乗り、毛細血管の穴などから血管内に染み込み、静脈の流れに従い心臓へ送られ、呼吸器により対外へ排出される。
気が変わりました。
臨床の現場で行なわれている物理療法に、“無知なるが故、行なえる手技”と感じるものが少なくなく、血流に対する認識を改め、自覚症状を中心とした医学的根拠のない“無知なるが故、行なえる手技”の撤廃を求めることを目的として、『最初の生命から人までの“進化?”を教師猫的に概説します』と言って書き始めましたが、書き上げた原稿を読み返し、その内容の蛇足性や現実に対する有資格者としての憤りと惨めさを痛感し削除しました。結果として『物質代謝模型図』を示し、閉鎖血管系の物質代謝順路などを概説してしまいました。読者には申し訳なく思いますが、これらをヒントにイメージしてください。