押圧操作はなぜ腹部から
腹部指圧の利点
1・最も安全な施術部位です。異常な反応(各種反射亢進)や各種発作等を 起こしにくい施術部位です。
2・お子さんが最も楽な姿勢で施術を受けることができます。
3・施術部位が点ではなく、面のため施術が容易です。
4・最も施術効果が期待できます。緊張緩和が短時間にて可能です。腹部には自律神経の副交感神経が幅広く分布しています。
5・お互いの表情がわかり、コミュニケ-ションがとりやすい位置です。
6・各種判断がしやすい。(圧、継続か中止、他の部位の施術等の判断)
脳性麻痺児への指圧は、必ず、腹部から始めてください。
腹部操作前の注意と心得
お子さん達の状態は各人各様に異なります。必ず個人指導を受け、本文の内容より個人指導の内容を優先させてください。(説明には専門用語を用いますが、分かりにくい用語は必ず質問してください)
会場で講師が「では、お子さんに腹部指圧を始めてください」と声をかけると、
急に緊張するお子さんがいます。お母さんの不安や緊張を察知した結果です。
お母さんに不安や緊張が存在すれば、子どもさんは全く受け入れてくれません。押圧法は、お子さん(受け手)に苦痛を与える必要のない手技です。ですから、お母さんが不安で緊張する必要はありません。嫌がれば、中止がルールです。
お子さんの腹部に不安なく手を置くことに、お母さん自身が慣れてください。
腹部操作の実技
腹部の押圧操作について説明します。復習の参考にしてください。
本講座では、わが子が受け手(被術者)、親が押し手(施術者)となります。
〔受け手と押し手の位置〕
受け手(わが子)をベットに上向きに寝かせます。この時に、受け手がこの姿勢を保つのに無理がないよう、枕や座蒲団などを利用します。
(それでも無理なようであれば横向き、あるいは抱っこで行ないます)
押し手(母親)は自分の利き手が右手であれば、受け手の右側。左手であれば、左側に位置します。指圧は衣服の上からでなく、皮膚に直に行ないます。
その為に必要な暖房等の室内環境は、事前に整えてください。
〔押し手の操作〕
押し手は、利き手のてのひら(手掌)を、受け手の腹部中央に密着させます。
受け手の腹部が“ピクリ”とわずかに反応します。(皮膚の圧反射)
5~15秒位この状態を維持します。押手の手の温度が受け手に伝わり、受け手が慣れる時間と考えて下さい。徐々に加圧すると、受け手の表情が変化します。 軽く声を出して反応する場合や多少不快な表情を示す場合があります。
同時にお腹の筋肉(腹直筋)が硬くなります。(筋性防衛と呼んでいます)
お腹の筋肉(腹直筋)が硬くなったら加圧を止めて、ほんの少し圧を弱めて、圧を持続します。筋性防衛が解除され、お腹の筋肉(腹直筋)の硬さが取れます。
同時に受け手の表情も穏やかになり、指圧を受け入れてくれます。
〔筋性防衛の解除は、押圧操作に不可欠です。詳細は個別に指導します〕
お腹の筋肉(腹直筋)の硬さが取れたら、受け手の呼吸に合わせて徐々に深く押し込んでいきます。(硬直が再度生じる事もありますが、多少減圧すればすぐ消失します。)表情がさらに穏やかになってきます。
この時、個人差がありますが、大小様々なしこりがお腹の筋肉(腹直筋)の内部やその深部に触れます。大きいもの場合は、さらに、しこりの中に米粒大の芯が数個触れます。(腹直筋の硬直が消失しないと触れない)場所は臍部、上腹部、下腹部の順で臍部が多い。(強く押すと、苦痛の為、治療を拒否しますので細心の注意が必要です)てのひら(手掌)全体か三指で、ゆっくり加圧し、ゆっくり減圧するように押すと、しこりは徐々に柔らかく、小さくなり、消失します。お腹の筋肉(腹直筋)のしこりが柔らかくなった時点で、上肢下肢の他動運動を行いますと、上肢下肢の筋硬直も少なくなります。施術前に比べ非常にスム-ズな他動運動が出来ます。同時に精神的にもかなりリラックスしてきます。
指圧部位を変える時の注意
お腹の筋肉(腹直筋)のしこりが柔らかくなったのを確認して、腹部を押しながら、手足を動かして下さい。施術前より、手足の緊張が取れていることを確認して、他の部位の指圧に移ります。お腹の筋肉(腹直筋)のしこりが柔らかくなっていない状態で他の部位を施術すると、伸張反の亢進が起こりやすく、それは異常な反応や各種発作を誘発しやすいので、十分な注意が必要です。
〔伸張反射〕
正常な反射で骨格筋の異常収縮による関節の脱臼などを守るため、その筋の拮抗筋が伸張を感じ、反射的に収縮を起こす現象。
〔参照〕
脳性麻痺児の四肢は、筋緊張や著しい血液循環不良を生じています。そのためわずかな刺激でも、異常な反応(各種反射亢進・姿勢反射亢進)を起こしやすく、各種発作が生じ、苦痛もともないます。通常、親子とも触れることさえ嫌います。腹部指圧は、交感神経の緊張を緩め、脳性麻痺児特有の全身性慢性的過緊張を効率良く緩和し、心身ともにリラックス効果を与えることができます。