腹部の過緊張
人の立位姿勢維持は骨格筋の筋力に依存せずとも、姿勢によるバランスで補うことができます。これは他に類のない独自の能力です。しかし、臨床現場における他覚的診断において骨格筋の筋力に依存せず立位姿勢を維持している患者に出会うことは極めて稀です。ひとたびバランスを失うと、無自覚のまま進行し、様々な疾患の基礎原因となりうる身体の歪への対応は早期発見による早期治療が原則です。
立位姿勢保持に殿筋群や大腿四頭筋の収縮が認められれば“疾病予備軍である”と『姿勢について』に書きましたが、殿筋群や大腿四頭筋の収縮の観察には診察条件や診断技術の熟練が不可欠で、臨床経験の少ない治療家が他覚的自覚を患者に促すに至らないとの声がありましたので、『腹部の過緊張』を追筆します。
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腹部の過緊張
姿勢バランスの乱れにより、骨格筋の筋力に依存せずには立位姿勢維持が困難な症例です。
まず、容易に円背や腰椎過前屈を他覚的に診断することができます。
腹部拡大写真により腹直筋の緊張を観察し、腹部正面写真により確認してください。
なお、本症例の患者は正座位において腰椎の後屈が観察されました。
腹直筋の緊張(画像処理写真)
腹直筋の緊張状態を観察しやすいように、画像処理を施しました。
腹直筋の緊張(未処理と画像処理写真)
写真にカーソルを重ねると未処理写真と画像処理を施した写真とが順に入れ替わります。
健常者と過緊張患者
立位姿勢における健常者と過緊張患者の腹直筋緊張状態を比較してみました。
腹直筋の緊張状態を観察しやすいように、画像処理を施しました。
健常者と過緊張患者の腹直筋緊張状態を比較写真
写真にカーソルを重ねると未処理写真と画像処理を施した写真とが順に入れ替わります。
備考
姿勢バランスの乱れによって生じた腹部の過緊張を示す腹直筋の隆起は『筋萎縮』によるもので、筋力トレーニングなどで生じた生理的変化とは異なり、他覚的判別法としては“腹筋力テスト”が容易です。
習慣的な姿勢バランスの乱れは無自覚で進行し、骨格筋や骨格に様々な悪影響を与えます。さらに、悪循環を引き起こし、様々な不定愁訴の誘引や自律神経機能障害の副因となります。自覚症状がなく放置されがちですが、他覚的診断によって(他覚的)自覚を容易に患者に促すことができます。
習慣的な姿勢バランスの乱れによって生じた様々な不定愁訴や自律神経機能障害などは心因性疾患と診断されるケースも少なくなく、人格まで否定されて苦しむ患者は稀ではありません。重複しますが、臨床現場での他覚的診断において、骨格筋の筋力に依存せず立位姿勢を維持している患者に出会うことは極めて稀と記載しましたが、教師猫は、この極めて稀な患者に出会ったことはありません。