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第19回 押圧法概論(2)

危険回避認識の再確認

車の運転の基本操作は、スピードを上げるときにアクセルを踏み、スピードを下げるときにはブレーキを踏みます。方向を変えるのはハンドル操作です。このことは、レースカーも乗用車でも同じです。しかし、時速200kmを超えるレースカーと時速50km位の乗用車の走行法は基本の基礎から異なると考えます。さらに、レースカー運転の基本操作や経験は乗用車の運転に役立ちますが、乗用車運転の基本操作や経験は、時としてレースカー運転技術習得の妨げともなります。スタッフ養成講座“受講生”のなかでも有資格者として“長年の臨床経験を持つ受講生”ほど、押圧法の基本技術習得に苦労が多いようです。時に、『これほどまでの精度が必要ですか』という質問を受けます。この点は、“長年の臨床経験を持つ受講生”は理解が早いのですが、経験の浅い受講生を納得させるのに苦労します。“疾病治療専門”の手技である押圧法では、高度な“押圧精度”を要求し、その理由を“高度な施術”のためと説明しますが最も高度な施術とは、“危険回避技術”です。危険回避認識が不可欠であることを再認識してください。


ブレーキを踏んだら、車が急発進

『ブレーキを踏んだら、急発進したんだ』とか『ハンドルを右に切ったら、車が左に曲がった』と聞いても『そんな馬鹿な』と大笑いをしないでください。取扱説明書などには書いてはないでしょうが、故障車の場合には起こりうると考えることです。というより『通常では起こり得ないことが起こる』これが故障です。

『通常には起こり得ないことが起こる。これが故障です』と述べましたが、車の場合にはたとえ故障しても設計上、『ブレーキを踏んだら、急発進した』などといったことは起こり得ないでしょう。機械の場合には『起こり得ないことが起こる』といっても限度があります。しかし、人は異なります。臨床現場での経験を基にすれば、『単なる故障では“起こり得ないこと”が起こることは、稀ではない』という結論に達します。


無知に潜む危険

腰椎椎間板ヘルニアの指圧治療法を『物理的に押し込む』と説く指圧師がいるようで、誠に残念です。腰椎椎間板ヘルニア(飛び出した髄核)を物理的に押し込むことなど不可能です。腰椎椎間板ヘルニアへの押圧法での対応は“神経圧迫の改善”や身体のもつ“異物処理機能の改善”を中心に行ないます。詳細は後述したいと考えますが、腰椎椎間板ヘルニアへの対応法を『“飛び出した軟骨”を、物理的に押し込む』と説く指圧師に関しては、ヘルニアに対する病理学的知識にも欠けると判断してください。

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掲載したMRI画像は典型的な腰椎椎間板ヘルニアで、髄核が後方に脱出し、脊髄や神経根を圧迫している様子が容易に見て取れます。腰椎椎間板の繊維輪(外側)の硬さは硬いゴム程度ですが、ひび割れた繊維輪から脱出した髄核(内側)の硬さは硬めのジャム程度、『体外から押し込む』…奇跡です。


新たな認識を促したい

医学的知識に欠ける危険回避は論外として、患者が“人であるがゆえ”に起こる危険性は多くあります。さらに、このことは、治療効率の著しい低下につながりますが論じられることさえ少ないように思います。その理由は、『患者が“人であるがゆえ”に起こる危険性』に対する認識が薄いことと、“改善策なし”と認識され、マニュアル通り(物として)の対応が行なわれているのではと教師猫は推測しています。

この項では、受講生諸君の危険回避技術や危険回避認識への“認識を促し”、高度な“押圧精度”習得意欲を高めることを目的としています。『“人であるがゆえ”に起こる危険性』を 〔腰椎椎間板ヘルニア〕を対応例に概説しますが、文面から腰椎椎間板ヘルニアに対する治療法を習得しようとしないでください。患者が“人であるがゆえ”に起こる危険性と高度な押圧技術習得の“必要性”をまず認識してください。


人が人であるがゆえに

腰椎椎間板ヘルニアへの対応は、物理的な操作による“神経圧迫の改善”や身体のもつ自己再生力による“異物処理機能の改善”を中心に行ないます。患者側からの資料提供がなくても、ヘルニア(脱出)部位や病状などは、疼痛や症状出現部位の支配神経から容易に推定することができます。施術部位は腰部や殿部さらに神経症状出現部位が中心となり、これらは医学的に有効な施術部位であり、施術法なのですが、同一症状患者に同一の施術を行なっても同一結果が得られないという、患者が“人であるがゆえ”に生じる現象が存在します。このことは治療効率の著しい低下のみならず、危険さえ招きます。

〔美女の告白〕
教師猫へ次のような告白をしてくれた慢性疼痛疾患の美女がいます。参考資料として掲載します。

「私は長年疼痛に苦しみ、数多くの病院や施術所を巡りました。遠方でも治療が辛くても、少しでも楽になりたいと通いました。ここ(教師猫の治療院)に来て、“不思議な体験”をしました。治療中に汗をかかないのです。今まで施術の痛さや暑さ寒さに関係なく、治療を受け始めると全身から汗が噴出しました。治療が終わると下着を取り替えるのが“習慣”となり、いつも治療に行くときは下着を持参していました」

〔美女との会話〕

教師猫 今日も着替えは持参したの?
美女 いいえ。
教師猫 どうして。
美女 最初は治療に行くときの習慣だったから、
ここ(教師猫の治療室)へも2~3回は持参しました。
でも、ここだと汗をかかないから、いらないし、面倒です。
教師猫 初めて治療を受けるときって、緊張しない?  怖くない?
今までに、一番怖かったのは?  どこだった。
美女 それは・・・。
教師猫 正直に言ってごらんよ。
美女 どこへ行っても始めは緊張するし、・・・怖いです。
でも治りたいから。治療は辛くても我慢しました。
ここの治療は痛くないけど・・・。
でも、ここが、最初は一番怖かったです。
教師猫 ここ(教師猫)が一番怖かったの・・・ほんとに。
美女 ・・・ だ~て。  先生が「正直に言え~て」いうから・・・。


教師猫は、多くの病院や治療所を巡っても改善されず、何年も苦しんでいた疼痛を緩和しただけでなく、従来できなかった運動も可能にしているんだぞ。「ここが一番怖かったです」とは・・・。「正直に言って」と言ってしまったのが失言だったと反省している。この記事を読み、患者の「ここが一番怖かったです」という意見に、大いに納得する“咲晩スタッフ”が少なくないことにも、「皆さん正直です」と褒めてあげる。

「美女と野獣の余談など加えずに、結論を急げ」といった声が聞こえてきそうですが、美女と野獣の話が余談か否かは、後に結論がでるでしょう。人は、“物理的刺激に対して一定の反応をする物”ではなく、理性や情動に支配される動物です。物理的に同じ場所に同じ圧を加えても人としての“理性や情動”を考慮しなければ、身体の反応に再現性を得ることが困難で、時として予期せぬ反応を起こし危険です。


ディファンスの危険

同一施術で身体の反応に再現性を得ることが困難な最大原因が、“ディファンス”です。ディファンスは筋性防衛と心性防衛に分けられますが、双方共に同一施術で身体の反応に再現性を得ることの妨げとなります。さらに、罹患部位に無関係と考えられる部位に加えられた刺激によって生じた“ディファンス”刺激によって筋肉の異常収縮や痙攣も生じます。さらにこれらの現象はより弱い部分(罹患部位)に強く現れます。腰椎椎間板ヘルニアの施術に限りませんが、“ディファンス”刺激によって生じた筋肉の異常収縮や痙攣は腰椎を締め付け、治療効率低下を招くばかりではなく、脊髄や神経根の圧迫を促し病状悪化も稀ではありません。このことが腰椎椎間板ヘルニアに限らないことも認識してください。

逆に、“ディファンス”さえ解除できれば、同一施術での身体反応に、“再現性”を得ることが容易となり、施術による、危険回避や治療効率は“飛躍的”に向上します。押圧法には筋性防衛解除法のみならず、心性防衛を“理性や情動”を考慮することなく、解除可能な手技が存在することを『美女と野獣』の会話から察知し、認識してください。押圧法の技術習得には“ディファンスに対する危険認識”が不可欠です。








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