アプローチ(3)
人間関係と接近容認距離
接近の条件を満たしていることを確認した後に接近行動を起こしますが、人間関係と接近容認距離に複雑ですが法則があることを認識し、アプローチミスによる患者さんの情動的興奮を回避してください。ここでは、人間関係と接近容認距離に“複雑だが法則がある”という認識をイメージ的に理解してもらうことを目的に概説します。重複しますが、人間関係と接近容認距離には法則がありますが、この距離は実測距離では語れない心理的距離であり、個人差・環境・双方の運動能力差などの様々な条件よって実測距離が異なることを含んでください。(必須な具体例については、随時講義と実技で説明します。)
〔正面からの実測接近容認距離〕
双方が同性の健常者で、正面から穏やかに接近した場合に、相手が情動由来の交感神経異常興奮を生じないで接近を容認してくれる距離の平均値です。種々の条件で変化することも含んでください。
- 無関係者に対する実測接近容認距離
- (接近者の身長)×2+(接近者との身長差)
- 知人に対する実測接近容認距離
- (接近者の身長)+(接近者との身長差)
- 親しい友人に対する実測接近容認距離
- (接近者の身長)÷2+(接近者との身長差)
- 保護者に対する実測接近容認距離
- 保護者の場合は実測距離以上に接近する目的の影響が大きいようです。
- あえて数値化すれば(接近者の身長)÷3が目安となるようです。
- しかし、現実には最も複雑で、数値化は無意味とも考えます。
上記は、正面から接近した場合の実測接近容認距離です。この距離は接近者の接近する方向(角度)や速度によっても異なります。相手の視界に入り、相手の側方から、相手が“自然に回避可能”な速度で接近することで、情動を刺激しない実測接近容認距離をさらに短くすることができます。〔左右差あり〕
但し、側方接近法で実測接近容認距離を短縮できるのは、相手が健常者に限られると考えてください。運動機能障害者は障害に比例し側方接近を嫌い、疾病患者は患部側からの側方接近を嫌います。
脳性麻痺児と保護者および施術者の位置関係
脳性麻痺児への施術に際し、施術効果を低下させる情動由来の交感神経異常緊張を軽減するためにアプローチにおける脳性麻痺児と保護者および施術者の位置は重要となります。脳性麻痺児が施術や施術者に不慣れなケースでのアプローチ法を概説します。
〔坐位の場合〕
- 1.保護者の“知人に対する実測接近容認距離”から保護者に再度声かけを行なう。
- この距離は、お子さんに対し接近者が保護者の知人であることを知らせ、安心感を与える。
- 2.保護者にお子さんの横抱きを依頼し、お子さんに施術者を確認させる。
- この行為で、接近者が自分に関わろうとしていることをお子さんが認識する。
- 3.保護者との距離を“親しい友人に対する実測接近容認距離”まで縮める。
- 接近には側方接近法を用いるが、接近方向は保護者の非支持腕側とする。
- 接近の阻止や接近者からの危険回避は、非支持腕側が最も容易であるため
- 保護者の無意識な情動を刺激することが少ない。
- 4.お子さんに触れる。触れる部位は上半身の自然に触れやすい部位とする。
- お子さんの状態にもよるが、教師猫は保護者から遠位の手指を触れる。
- 5.施術に移行する。
〔仰臥位の場合〕
- 1.お子さんを仰臥位とし、保護者はお子さんの側胸部に座す。
- 2.保護者と同側の保護者の“知人に対する実測接近容認距離”に座し、保護者に再度声かける。
- 3.保護者と同側から保護者との距離を“親しい友人に対する実測接近容認距離”まで縮める。
- お子さんが施術者の接近を認識できる方向から接近する。(保護者による死角に注意)
- 通常、接近には膝行による側方接近法を用いる。
- 4.お子さんに触れる。触れる部位は坐位同様上半身の自然に触れやすい部位とする。
- 5.施術に移行する。
- 保護者を挟む形での施術となり、多少不自由だが、徐々に割り込んでいく。
- 保護者を排除しないのは、お子さんに保護者不在の不安感を与えないため。