神経の再生
脳の神経細胞の再生については、会場で最近の説や対応について講義します。また神経線維の損傷は日常的に再生し、外科的縫合により治癒は早まります。神経の再生や脳内ネットワ-ク(シナプス)の変化と必須条件を説明します。
事故で肩を損傷し、上肢(腕)の神経が複雑に切れた患者が、手術後、医師に「先生、腕が勝手に動くのです」と訴えました。患者の上肢は呼吸と共に不随意(自分自身の意志とは無関係)に動いていました。手術の際に上肢の神経とすぐそばにある肋間神経(呼吸に関与する不随意の神経)とを誤って継いでしまったのです。 機能学習訓練後、腕は随意(自分自身の意志)で動くようになりました。
現在では上肢の神経の損傷が著しく激しい患者に、意図的に上肢の神経と肋間神経をつなぎ、その後の訓練で機能を回復(学習)する手段もとられています。
何故、不随意の肋間神経とつないで、随意に動くようになるのでしょうか。
猫を使った実験で、次のようなことが確認されています。
前肢(前足)の屈筋(関節を曲げる筋肉)と伸筋(関節を伸ばす筋肉)を支配する神経線維をそれぞれ切断し、継ぎ合わせるときに、神経線維を逆に縫合します。 猫が関節を曲げようとすると、関節は伸びます。伸ばそうとすると、曲がります。猫は上手に歩行できません。そのまま放置して観察を続けた結果、数週間後には通常歩行が可能となり、最終的には術前の運動機能が観察されました。
解剖所見によると、逆に縫合した神経線維に変化は認められず、脳の神経細胞のシナプスに、著しい変化が認められました。脳の神経細胞のシナプスが逆につながっていたのです。しかし、手術直後から前肢に負荷(刺激)がかからない姿勢に腹帯などで宙吊りにすると運動機能の回復やシナプスの変化も認められなくなります。 手足からの刺激が脳神経のネットワ-クさえも作り変えるのです。
≪脳のネットワーク作りに、末梢(手足への)刺激は不可欠です≫