アプローチ(2)
運動機能障害者(児)へのアプローチ
患者へのアプローチのなかで、最も注意を必要とするのが運動機能障害者(児)へのアプローチです。〔脳性麻痺児になぜ指圧なのですか〕でも触れましたが、健常者にとってごくありふれた行為であっても運動機能障害者には、健常者の想像を超える恐怖を伴う行為となりえます。あなたの運動機能速度が3~5分の1に低下したら、あなたは自身の運動能力の“3~5倍速の世界”で生活することになります。見知らぬ人が3~5倍速の猛スピードであなたに近づいてくる・・・止まるのか、突っ込んでくるのか・・・突っ込まれても避けられない。道行く人とすれちがうだけで緊張や恐怖に襲われることになります。
脳性麻痺児への対応
〔声かけ〕
アプローチの一歩は“声かけ”です。脳性麻痺児とその保護者の視界に入り適切な距離(通常、接近者の身長の1.5倍~2倍程度の距離)から、保護者に向かって(視線を送り)『○○ちゃん』と声をかけます。保護者は自身の名前よりお子さんの名前の方に強く反応します。慣習的にお互いを“お子さんの愛称”で呼び合う保護者も少なくありません。次に、お子さんに視線を送り『○○ちゃん、おはこんばんちは』と声をかけます。お子さんに“保護者があなたの接近を容認したこと”を認識させることが重要です。
〔接近〕
既に顔見知りで、お子さんが治療を受け入れてくれる特別な間柄を除けば、視線をお子さんではなく、保護者に送りながら接近してください。特別な間柄でもお子さんの視界から消える接近法は厳禁です。通常、保護者が『○○ちゃん、△△先生だよ』とお子さんに“あなたの存在と接近”さらに“あなたの接近に対する保護者の容認”を伝えてくれます。接近はお子さんがあなたの接近を認識まで待ってください。お子さんと初対面、あるいは、お子さんがあなたを特定できない(個人認識が薄い)場合は、接近の際にお子さんに視線を送らないでください。“声かけ”は、“お子さんの愛称”『○○ちゃん』でよいのですが、視線は保護者に送り、お子さんを視界で捉えてください。接近はお子さんの運動(移動)能力を考慮した速度で行います。接近の方向も重要となります。保護者が“あなたからお子さんを保護できる方向”で、お子さんの視界から“あなたの姿が消えない”ことは、接近の最低条件であると心得てください。
〔注意:特別な間柄では、お子さんから視線を外すことは逆効果です。お子さんに疎外感が生じます。〕
重複しますが、運動機能障害者は、常に動くものに対し健常者とは比較にならない“警戒心と恐怖心”を抱かねばならないのです。さらに、突然の音は“ビックリ”ではなく恐怖です。情動由来の交感神経異常緊張は理性でのコントロールが困難で、いかに『診断即治療』の妨げになるかを再認識してください。
〔視線の変化と凝視〕
『視線や視線の変化』は、“言語にも劣らない”コミニュケーション手段であることを再認識してください。このことは、『視線や視線の変化』が様々な情報を(双方向に)伝えることを意味します。さらに、これらは理性より情動の変化(心の変化)を無意識に瞬時に伝えてしまい、その後に“理性によって発した言語”の意味を否定される事態を招くことも稀ではありません。『目は心の窓』とは、実に的確な表現です。
動物脳(情動)に最も強く働きかけるのが“凝視”だと考えます。凝視効果については、理論より体験にて学ぶ方が早いとも考えます。“凝視”がいかに情動に作用するか実験により体験してみてください。
〔注意:相手に無断で凝視効果の実験を行なわないでください。様々な誤解や危険を伴いかねません〕