脳性麻痺児になぜ指圧なのですか?

『てのひらの会・咲夢 』資料より

お母さんの手は魔法の手

なぜ脳性麻痺児に指圧なんですか・・・。それは、脳性麻痺児の運動機能の学習習得に不可欠となる“学習が可能となる条件”を提供したり、発育に伴う様々な障害改善に有効だからです。さらに、“お母さんの手は魔法の手”だからです。


学習していないものは思い出せません

人は健常に生まれても未熟ですが徐々に運動機能を学習し習得していきます。脳性麻痺は成人の運動機能障害と異なり、運動機能習得以前に脳の運動神経が傷つき、運動機能を学習し習得するために “学習が可能となる条件”を必要とする病気です。脳性麻痺児に進行性のような症状が現れる原因は、運動機能を学習するための条件が欠けたためで、運動機能の学習習得と機能回復とでは根本から異なると考えます。学習していないものを思い出せという考え方や指導方針は酷ではないでしょうか。


改善の可能性

脳性麻痺児の成長過程や生活環境には、実に様々な悪条件が潜んでいます。これらは運動機能障害の改善を阻害するに留まらず、心理的負荷刺激ともなり、さらに、両者は相互に作用し悪循環を起こします。しかし、両者の何れかを改善することにより、これらは良循環へとも向かいます。このために、脳性麻痺児に生じる肉体及び精神的悪条件を認識し、改善の可能性を探求することが重要と考えます。無条件ではありませんが、脳性麻痺児の発育に伴う実に様々な障害や運動機能の学習条件の改善に指圧(押圧法)は非常に有効と考えます。
さらに、わが子への指圧は“『親子』という”ごく自然で特別な関係が、専門家の前に大きく立ちはだかる壁さえ容易に取り除き、指圧効果の効率を高めます。


ごく自然で特別な関係

脳性麻痺児の精神的過緊張の緩和を例に親子というごく自然で特別な関係の優位性の概略を説明します。〔詳細は、別項を参照下さい〕

想像を超える世界

脳性麻痺児の多くは、過敏と言うより、いつも緊張を強いられています。恐怖に無防備でさらされ、危険を予知できるのに身体の動作が不自由なため、自分で危険を回避できない心理的負担は、健常者の想像を超える世界だと考えます。

公園や駅のベンチで本等を読むことは、ごくありふれた行為でそれほど心理的負担を受けることもなく、このことが本の内容を学習する大きな障害になるとは考えにくいと思います。しかし、あなたが“椅子に座って本を読む姿勢”に手足をギプスで固定され、身体の自由を奪われた状態で、そのことが外見からわからないような衣服を着せられ、公園や駅のベンチに放置されたら、背後のわずかな物音や行きかう人々から、どれほどの心理的負担を受けるでしょう。言語障害があれば、口の中に綿を詰められ、マスクをかけさせられている状態と同様です。

これは、脳性麻痺児が精神的な過剰緊張を起こすひとつの原因に過ぎません。随時説明しますが、脳性麻痺児が過剰緊張を起こす原因は数多く存在します。公園のベンチでの出来事は、心理的負担に留まらず、肉体にも様々な悪影響を与えます。 押圧法による腹部指圧は、腹部に存在する自律神経の副交感神経(心身をリラックスさせる神経)に作用し、心身を共に安定させることができます。


我慢比べではありません

押圧法には、様々な原則があります。そのひとつに、被術者(受け手)の心身に無用な緊張や苦痛を与えてはならないという原則があります。この原則を守らなければ、施術効果がないだけでなく、時として危険です。身体は押される瞬間に反射的(無意識)にディファンス(防衛反応)を起こします。当然ですが、不適切な加圧は、より激しい防衛反応を起こさせます。この無意識に生じるわずかな防衛反応を見落とせば、後は施術者と被術者の力比べ、「いて~・きく~」などとは、治療ではありません。施術者の指が『勝つか負けるか』の単なる我慢比べです。


笑顔です

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〖注意:絶対にまねをしないで下さい。危険です〗

押圧法の真髄を診断即治療と呼びます。それは、診断と治療操作をそれぞれ別々に行なうのではなく一押しで診断し治療することです。押した瞬間に被術者の防衛反応や身体の変化を巧みにとらえて(診断し)、その情報により、最適な圧や持続時間を選択し、被術者(受け手)が無意識に起こす防衛反応を解除し筋肉が無防備となるように操作します。この操作を専門的には筋性防衛の解除操作と呼んでいますが、秒単位の時間に数多くの条件を満たしながら臨機応変に対応します。筋性防衛の解除を瞬時に行なえれば、写真のように腹部を深く押し込むことも、被術者から笑顔を得ることもできます。まさに、押圧法の真髄と呼ばれる高度な技術です。 〔注意:絶対にまねをしないで下さい。危険です〕

押圧法究極の技は、施術者に対し被術者自身が抱く不安や恐怖(心性防衛)や圧刺激に対し意識または無意識に生じる筋肉の反応(筋性防衛)の双方を押圧により解除し、心身ともに被術者が無防備な状態を提供する技術です。押圧法の劇的とも表現される指圧効果は、この技術により獲得できるものです。実は、この技術の認識や習得なしでは押圧効果を語る意味さえないのです。


尻ごみしないで

車の運転には運転免許の取得が必要です。運転免許を取得すれば、一般道での運転技術は、その後の経験により習得することができます。しかし、レーサーの運転技術は免許の取得後に一般道で習得が可能な技術とは根本的に異なると考えます。指圧師免許を取得すれば、指圧を業とできます。しかし、その後の経験で、押圧法を習得することは困難と考えます。レーサーと同様に押圧法の習得には押圧法の認識と押圧法習得の特別な訓練を必要とします。
お母さん『プロでも困難な高度な技術を覚えろなんて~』と尻ごみしないでネ。
私たちが押圧法を指導します。お母さんの手は、特別な魔法の手なんですよ。

押圧法の熟達者でも、初対面の乳幼児への指圧治療には大きな壁があります。誰もが見知らぬ人の接近には不安や恐怖(心性防衛)を抱きます。治療目的であることが理解できれば和らぎますが、乳幼児から理解を得ることは困難です。お母さんほど乳幼児の心性防衛を簡単に解除できる人はいません。

押圧法では意識または無意識に生じる筋肉の反応(筋性防衛)を習練した指でとらえて圧加減を行ないます。これは一般の患者さんの場合、表情や表現では情報が不足するからです。無意識な筋肉の反応を患者さんに問うより、指先で確かめたほうがより正確なのです。しかし、重度な脳性麻痺児の場合、経験上少し異なることを知りました。無意識な筋肉の反応が同時に表情に現れます。
異常な過緊張や幼児であることが原因と考えます。しかし、この微妙な表情変化を読み取れるのはお母さんだけです。私たちは治療中に生じる筋性防衛による表情変化をお母さんに読み取って報告してもらっています。


指圧の心 母心  おせば生命の泉湧く

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〖浪越徳治郎先生の直筆の額〗

押圧法は、独自の手技です。その技術の習得には基本の基礎から一つ一つの操作を正確に繰り返し習練し、一段ずつ積み上げていかなければなりません。押圧法の指圧効果を得るためには、受け手(被術者)が押し手(施術者)に抱く不安や恐怖(心性防衛)や圧刺激に対し生じる筋肉の反応(筋性防衛)を押圧で解除し、心身ともに受け手を無防備な状態に導く技術の習得が欠かせません。押圧法の技術習得は、国家資格を持つ指圧師にも容易な習練ではありません。しかし、唖然とさせられる事実があります。それは、お母さんのわが子に対する指圧効果です。親子というごく自然で特別な関係は苦痛を与えない限り無防備です。親子というごく自然で特別な関係には絶対的信頼があります。押圧法はその効果を上げるために、苦痛や我慢を強いる必要がない手技です。お母さんなら押圧法を基礎から学ぶ必要はありません。わずかな指導と助言で押圧効果を得ることができます。まさに、『指圧の心母心、おせば生命の泉湧く』です。