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第22回 押圧法概論(5)

“こり”とは

『肩こり』に代表されるような、骨格筋が張ってかたくなることを一般に“こり”と呼び、“こり”が改善された状態を“こりがほぐれた”と表現し、叩くとか揉むといった手技が“こりをほぐす手段”として用いられます。『肩こった…揉んで(叩いて)くれ』とか『揉んで(叩いて)こりをほぐす』といわれますが、こりの正体とは?
骨格筋は複数の骨に関節を介して付着し、〔参照:単関節筋と多関節筋〕身体運動の役割を担います。筋肉は刺激を受けると“縮む”という機能を持っていて、刺激がなくなると緩みます。しかし、筋肉自身に自身を伸ばす機能はありません。筋肉を伸ばすのは拮抗筋の働きです。さらに、疲労すると縮みにくく、緩みにくい状態となります。筋肉が縮んで緩みにくくなった状態を『筋疲労』と呼びます。“こり”の正体は『疲労』なのでしょうか…少し待ってください。骨格筋が張って硬くなる“こり”と『筋疲労』ではイメージが異なりませんか。“こり”の代表は『肩こり』でしょう。『肩こり』という用語自体は明治時代に夏目漱石が「肩凝り」と表現したのが始まりで、昭和に入り一般用語になったものです。しかし、この症状は古くから「肩が張る」とか「肩がつかえる」と表現されてきた、日本人にはお馴染みで、日本独自の症状です。

『筋疲労』は骨格筋の疲労です。当然ですが、『筋疲労』は全ての骨格筋に生じます。しかし、骨格筋が張って硬くなる“こり”という表現に、他覚と自覚では違いがあるようです。「背中が凝っていますね」とか「全身凝りだらけですよ」といった他覚的表現はあるのですが、『肩こり』『首こり』以外の“こり”を訴える自覚表現は少ないのです。肩こりの直接の原因は、筋肉への酸素不足と老廃物の蓄積といわれます。これは『筋疲労』の結果でも生じ、全ての骨格筋に生じうる現象といえます。では、なぜ、『腹こり』とか『尻こり』が存在しないのでしょう。さらに、『肩こり』が“他に類のない日本人独自の症状”とは・・・


こりをほぐす・・・

『肩こり』の直接の原因は、筋肉への酸素不足と老廃物の蓄積で、筋肉への酸素不足などを招く原因は多種多様とか、人間が立って歩きはじめたことが原因とか、または、ストレスが原因との説もあります。しかし、これらの説では、『肩こり』が“他に類のない日本人独自の症状”である理由解明は出来ません。日本人の遺伝的体形を原因とする説も、日本で暮らす外国人の『肩こり』や外国で生まれ育った日系人の『肩こり知らず』を説明できません。『肩こり』の症状改善のために、“こり”を揉み(叩き)ほぐすことで、血行を改善して酸素不足や老廃物の蓄積を解消するとのことですが、…教師猫には理解できません。

骨格筋の“こり”は揉んで(叩いて)ほぐれるのでしょうか。さらに、そのことで、血行を改善し、酸素不足や老廃物の蓄積を解消することが出来るのでしょうか。教師猫の治療室を訪れ、『肩こり』を訴えた患者は延べ人数にすれば数万人になりますが、肩を施術して『肩こり』を改善したことは、一例もありません。

酸素不足や老廃物の蓄積が生じるのは、血管内ではなく筋組織内です。これらの改善には、血管内の酸素を筋組織に送り込み、筋組織内の老廃物を血管内に取り込まなければなりません。これらが出入りするための毛細血管の穴は、赤血球の直径(7.2μm)のわずか60分の1(0.12μm)位の大きさです。

単位の説明
〔μ=マイクロ=百万分の一。1μm=千分の一ミリメートル〕
〔n=ナノ=十億分の一。1nm=百万分の一ミリメートル〕

血管は全身に張り巡らされ、その総延長は10万kmに及びます。その太さは細動脈で直径平均40μm (20μmから100μm)で、毛細血管の平均直径はわずか百分の一ミリメートル(9μmから12μm)です。

“こり”の原因となる酸素不足や老廃物の蓄積を解消するとは、毛細血管(直径百分の一ミリメートル)に開いた十万分の一ミリメートル程度の穴から、血管内の酸素を筋組織内に送り、筋組織内の老廃物を血管内に取り込むことですが、このようなことが“こり”を揉み(叩き)ほぐすことで可能なのでしょうか。


筋の損傷と筋肉痛

『筋疲労』や『筋の損傷』の回復、さらには『超再生』や『筋肉痛』について概説していきますが、これらの今後の説明(別項を含む)に、骨格筋の解剖や生理等・・・特に、サイズの知識が重要となります。

骨格筋は、全体を“筋膜”という膜で包まれた、直径約0.1mmの筋線維の集合体です。さらに、筋線維は直径約0.001mmの“筋原線維”の集合体です。これらは、毛細血管に開いた0.00001mm程度の穴から、酸素を受取り、老廃物を排出しています。骨格筋の『痛覚』は、骨格筋を包む“筋膜”のみに存在します。

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【筋疲労】
『筋疲労』の回復は、疲労原因の除去(主に、酸素や栄養不足の改善や老廃物蓄積の解消)によって、可能となります。臨床家としては、理論と現実のギャップを感じますが、一言で言えばこうなります。

【損傷の回復】
骨格筋の損傷回復は、自己再生力に応じて行なわれます。回復速度は、自己再生力に比例しますが、回復条件が満たされなければ、回復速度の低下のみならず、回復の可能性さえも低下します。さらに、骨格筋の損傷回復が順調であっても、不完全再生と独自の特殊な再生である“超再生”に分かれます。

【超再生】
骨格筋の損傷が筋線維以下のレベル(サイズ)で生じ、順調に自己再生力が発揮された場合に生じる、骨格筋独自の特殊な再生です。骨格筋の筋力アップは、この“超再生”によってのみ可能となります。

【筋肉痛】
通常、健常者の骨格筋が損傷を受ければ、損傷時から、損傷の程度に応じた痛みを伴います。しかし、健常者の骨格筋が損傷を受けても、損傷時には発痛せず、翌日または数日後に苦悶するほどの強烈な痛みに襲われることがあります。筋肉痛に代表される症状です。筋肉痛の機序について加筆します。


筋肉痛の機序

筋肉痛は、“骨格筋損傷に伴う”痛みではなく、骨格筋損傷後の『自己再生の過程』に生じる痛みです。骨格筋を構成するわずか直径約0.1mmの筋線維は、日常動作や運動の過負荷で容易に損傷します。

損傷した筋線維は自己再生されますが、自己再生の過程で『炎症』が生じます。炎症に伴う体液増加(腫脹)が内部から筋膜に存在する“痛覚”を刺激します。この結果、筋肉痛と呼ばれる痛みを感じます。
健常者の骨格筋が損傷を受けても、骨格筋を包む“筋膜”以外には痛覚がないため、損傷やその影響が“筋膜”に至らない場合は痛みを感じることはありません。筋肉痛の発症時期に、年齢差や個人差が生じる理由は、自己再生能力の個人差にあります。社内運動会などの翌日に“筋肉痛に苦しむ若者”を安易に「日頃の鍛錬が足りない」と笑い飛ばし、翌日に仇を取られないようくれぐれも注意してください。加齢に伴う自己再生能力の低下は“筋肉痛”の出現時期を遅らせる傾向があります。








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