第24回 押圧法概論(7)
〔指圧研究会・咲晩〕スタッフ養成講座受講生諸君を相手に血液循環の“順路”について概説するのは、教師猫といえど躊躇します。しかし、基本の基礎知識不足は“押圧操作”に多大な影響を与えます。
(躊躇しながらも・・・概説しよう。基本の基礎認識が抜けていたら、積み上げ以前に努力も困難)
循環器官
循環器官
動物体の各組織に酸素や栄養供給し、組織内の二酸化炭素や老廃物を運び出す器官を呼ぶ。人の循環器官は、体液(血液やリンパ)やホルモンなどを運ぶ心臓・血管・リンパ管など。
人の循環器官
人の循環器官は、体循環と肺循環に二分される。体循環は、全身の組織に酸素や栄養分を供給し、二酸化炭素や他の不要物を受け取る。他に、小腸で吸収した栄養や肝臓で作られた尿素などを腎臓まで送り届けるなどの役割も担っている。肺循環は肺で二酸化炭素を放出し酸素を受けとる、心臓と肺の間の血液循環で、小循環とも呼ぶ。
動脈血と静脈血
動脈血は、肺から体の各組織の細胞までを流れる血液。(酸素をふくみあざやかな赤色)
静脈血は、各組織の毛細血管から肺まで流れる血液。(黒ずんだ赤色)
肺循環では、動脈を静脈血、静脈を動脈血が流れる。
血液と組織液の物質交換
組織液は、血しょうや白血球の一部が毛細血管からにじみ出たもので、細胞のまわりをとりまいている。血液は酸素や栄養分を組織液にわたし、二酸化炭素や不要物を組織液から受けとる。組織液が細胞に酸素や栄養分をわたし、細胞から二酸化炭素や不要物を受けとる。
毛細血管模型図
血管は全身に張り巡らされ、その総延長は10万kmに及びます。その太さは細動脈で直径平均40μm (20μmから100μm)で、毛細血管の平均直径はわずか百分の一ミリメートル(9μmから12μm)です。
物質交換のための有窓性毛細血管の穴は、赤血球の直径(7.2μm)よりはるかに小さなサイズです。
【単位の説明】
〔μ=マイクロ=百万分の一。1μm=千分の一ミリメートル(通常、一ミクロンと呼ぶ)〕
〔n=ナノ=十億分の一。1nm=百万分の一ミリメートル〕
【備考】
動脈と静脈を“毛細血管”でつなぐ(脊椎動物の)循環器系を『閉鎖血管系』と呼び、“毛細血管”がなく、動脈の末端で血液が組織中に出る(節足動物や軟体動物などの)循環器系を『開放血管系』と呼ぶ。
開放血管系では、血液と組織液の区別はできない。
アリ(蟻)の雨宿り
『基礎知識不足は“押圧操作”に多大な影響を与えます』といって、循環器官の概説を始めたと思えば、いきなり、毛細血管模型図や微小な単位(百分の一ミリメートル)の数字をあげ、“毛細血管”を持たない節足動物や軟体動物などの『開放血管系』に移行する。ここに、概論を説く教師猫の真意があります。
教師猫といえど、養成講座受講生諸君に『血液と組織液の物質交換 』などを概説するのは躊躇します。“血液は酸素や栄養分を組織液にわたし、二酸化炭素や不要物を組織液から受けとる。組織液が細胞に酸素や栄養分をわたし、細胞から二酸化炭素や不要物を受けとる”などという知識は(諸君は)既に修了し、概説するには蛇足的な内容です。しかし、教師猫が説く〔押圧法の必須条件と非必須条件〕や患者に苦痛を強いる手技の危険性を唱えるどころか、“意にも介さない”有資格者も少なくないのです。
彼らは実に堂々と、激しい揉捏や叩打、時には圧迫によって、“血行が改善され”酸素不足や老廃物の蓄積が解消されたと説きます。最新の電子顕微鏡が解き明かした、動脈と静脈を“毛細血管”でつなぐ『閉鎖血管系』の有窓性毛細血管の穴を介して行なわれる、“物質代謝の仕組み”が理解されていない現実を感じます。最新の検査機器が導き出した結果やミクロ単位の医学情報に対しイメージ的知識があれば、激しい揉捏や叩打により“血行が改善される”などという議論や手法は淘汰されると考えます。
“アリ(蟻)の雨宿り”と題しましたが、医療技術としての手技・手法を論じるとき様々な角度から検討することが必要です。時に、視点を変えるだけでなく、サイズを変えることも重要かと考えます。昆虫の観点から映像を捉える、“虫の目レンズ”で撮影すれば足元の草木は密林となり、わずかな風雨も暴風雨に変化します。地面に水たまりを作った程度のわずかな雨も、私たちが“アリのサイズ”で体験すれば認識も変わるでしょう。ピッチャーが全力で投球した瞬間に、上肢の血流にはどのような変化が生じるのか。直径わずか百分の一ミリメートルの毛細血管や千分の一ミリメートルの筋原線維に与える衝撃は・・・。
【お断り】
掲載した毛細血管模型図は、電子顕微鏡で観察した毛細血管をイメージ的に模型図としたものです。受講生諸君が参照とする場合、図内の部分名称はイメージ的に記憶する程度で十分と考えます。