抗重力ブラ 詳細・4
脂肪もみ出し
体脂肪とは、人間の体内にある脂肪の総称です。別名を貯蔵脂肪と言い、エネルギー源として重要な脂肪を脂肪細胞として全身に蓄えたものです。この中の、内臓に蓄えられたものを内臓脂肪、皮膚に蓄えられたものを皮下脂肪と呼んでいます。脂肪もみ出しの対象とされるのは、内臓脂肪ではなく、皮下脂肪だと考えます。脂肪を揉みほぐして、移動させると聞かされると、血液中を流れるコレステロールの模式図等を思い浮かべる方も少なくないようです。
脂肪細胞の直径は、白色脂肪細胞が肥大した肥大化脂肪細胞で130μm、最も小さい褐色脂肪細胞でも、100分の2ミリメートル(20μmから40μm)です。全身の総延長が10万kmに及ぶ血管の大半を占める毛細血管の平均直径は、わずか100分の1ミリメートル(9μmから12μm)と細く、物質代謝をおこなう毛細血管の穴の直径は、1万分の1ミリメートル以下(60nmから80nm)です。
血管のサイズ等については、下記をご参照ください。
押圧法概論(7)の【血液と組織液の物質交換】
押圧法概論(8)の【物質代謝模型図】
患者さんから「脂肪を潰せば、毛細血管やリンパ管から吸収されますよね?」という質問を受けた時、教師猫は「携帯電話を細かく分解すれば、すべてを部品として利用することができますが、ハンマーで叩き潰して細かくした場合でも部品として利用できますか」と答えました。脂肪細胞を分解するのは、酵素の役割です。
高脂血症という病気があります。血液中のコレステロールや中性脂肪が増加した状態で、自覚症状に乏しく、動脈硬化によって重篤な病気を引き起こすことを特徴とする病気です。診断基準は、総コレステロール220mg/dl以上、中性脂肪150mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl未満となっています。
高脂血症の診断基準である「中性脂肪150mg/dl」は、血液1リットル中に1.5gの中性脂肪の存在を意味します。この数値を参考に、成人の全血液中の中性脂肪量を概算してみました。全血量は体重52・で約4リットル、体重65・で約5リットルになりますので、健康な成人の中性脂肪量は、体重52・で6g、体重65・で7.5g未満となります。
顕著にシルエットを変化させるほどの脂肪を移動させるとすれば、どの程度の量の脂肪を移動しなければならないのでしょう。もし、一度に100gの中性脂肪が血液中に流れ込んだら、その数値は、高脂血症の診断基準値の何倍位になるのでしょう。腕やお腹の脂肪が、マッサージ程度の刺激でバストに移動するのであれば、メタボの人がマラソンをすれば、走る衝撃で脂肪が動き、ゴールする頃には、人体の原型を留めていることさえ困難でしょう。
抗重力ブラ・11に記載しましたが、マッサージ等の物理的刺激により、脂肪が顕著に移動することはありません。水分であれば、移動や減少させることが可能ですが、当然、一時的なものです。脂肪が減るのは、エネルギーとして消費したときだけです。
【追記】
この項は、腕やお腹の脂肪をマッサージ等によって、バスト内へ注入するという風説を否定する目的で述べました。読み返してみると、随分乱暴な表現をしたものだと少々反省しています。しかし、修正はおこないません。このような表現は、論拠のない風説を否定するための教師猫的表現法とご理解ください。教師猫は“ドチテ坊や”への対応にも同類の手法を用います。
高脂血症等の患者さんが、“マッサージ等を受けて、潰れた脂肪が血管に流れ込んだら”という不安にかられたらお許しください。皮下脂肪は、重要なエネルギー源でもありますが、外部からの衝撃を吸収する緩衝材としての役割も担っています。ペンチなどで潰せば話は別ですが、相当手荒な素人のマッサージを受けても、簡単に潰れるものではありません。まして、国家資格を有するあん摩・マッサージ・指圧師の施術であれば安心してお受けください。