他覚的診断法
知覚症状(自覚症状)の変化と他覚的症状変化について
適切な治療を施し、他覚的な症状改善が認められるにも関わらず、知覚症状(自覚症状)に変化を伴わないケースが見られます。時として、患者ならずも治療家までもが不安に駆られます。
患者が訴える知覚的症状(自覚症状)の変化や知覚の性質について考えてみましょう。
【症例A】
- ・自覚症状(患者の訴え)
- 痛くなったりよくなったりと長年症状が悪化や改善を繰り返してきた。
- ・他覚的診断による所見
- 他覚的診断により、病状は慢性的に悪化してきたと推察される。
- ・対処法と注意
- 慢性腰痛などに多く見られますが、症状の悪化に伴い患者の知覚的症状は、過敏と鈍麻を繰り返します。自覚的診断に頼る患者は、当然症状は悪化と改善を繰り返していると考えます。
- しかし、他覚的診断結果において、患者の主張や病状の変化(改善)を認めるのが困難です。
- 患者に対し、病状の変化と知覚的症状の変化について十分な説明が必要です。特に、他覚的には症状改善が認められても、知覚的には“症状悪化が疑われる事態”も発生しうることを事前に説明しておくことが重要となります。加療による他覚的変化や自覚しやすい運動機能変化の推移について説明しておくことも有効です。
【症例B】
- ・自覚症状(患者の訴え)
- 加療により主症状は緩和したが、他の部位に症状が発生した。(他部位の悪化疑惑)
- ・他覚的診断による所見
- 病状の改善が認められる。さらに、他部位の病状悪化は認められない。
- ・対処法と注意
- 知覚の生理的特徴ですが、複数部位の痛みを正確に自覚することは困難です。通常は主症状部(最も痛みの激しい部位)のみを疼痛部として自覚します。適切な加療により主症状が緩和すると、他部位の疼痛を自覚します。患者はこのことを他部位の悪化と認識する場合が少なくありません。知覚神経の生理的特徴を患者に理解してもらい、今後の不安を取り除くことも重要となります。さらに痛みを伴う慢性疾患は患者の動作や姿勢に日常的に様々な影響を与えます。その結果が他の疾患原因となることは希ではありません。主症状によって発生する、続発的な疾患について、事前に因果関係を十分に説明することも必要となります。
『他覚的診断と説明の優劣は、患者からの信頼や患者管理に著しい影響を与えます』