アプローチ(4)
視線位置と情動の変化
施術者の視線位置やその変化によっても被術者の動物脳(情動)と理性脳(情操)に摩擦が生じます。動物脳(情動)由来の交感神経過緊張は自律神経の混乱やメンタルディファンスなどを発生させます。これらは、診断や施術結果に対し様々な悪影響を与えます。しかし、(被術者は当然としても)施術者に“これらについての因果関係”に対する認識が欠けていることがアプローチミス以前の問題となります。
〔仰臥位と視線位置〕
施術者の視線位置によっても被術者の動物脳(情動)由来の交感神経過緊張を引起しやすい体位は『仰臥位』です。〔指圧研究会・咲晩〕研究会での脳性麻痺児の母親への実験結果を基に概説します。
被術者に『てのひらの会・咲夢』会員の母親(健常者)を選出、施術者には〔指圧研究会・咲晩〕メンバーから自宅への往診指導担当者を選出しました。両者はお互いに気楽に冗談を交わす親しい間柄です。被術者に「仰臥位で大腿前側を施術します。施術中にこちらの指示で施術者が視線位置を変えます」と説明し、「施術者の視線位置の変化に伴う心境の変化をためらわず発言してください」と依頼しました。施術者および咲晩メンバーに実験結果の予測を聞いたところ「○○先生の視線位置が変わったくらいで△△ちゃんのお母さんの心境が変化するとは思えません」とのこと、被術者も同意見だったのですが・・・
〔実験法〕
施術者は(被術者の)右大腿前側中央部を加圧点とし、基本姿勢で“移動開始姿勢から移動終了姿勢”への移行操作を行なう。施術者と被術者との距離条件を一定に保つため加圧点の移動は行なわない。加圧は加圧部位の遊びを取る程度とし、加圧による被術者への影響を与えないようにする。施術者の視点(視線位置)は第三者が下図〔A点・B点・C点〕から任意の点を選び指示する。施術者は〔加圧点→指示された視点(B点・C点・A点のいずれか)→加圧点〕の順に視線を移す。施術者は指示された視点に視線を移すのと同じタイミングで被術者に対し『痛くないですか』と声をかける。被術者にはその瞬間の感情を深く考えず、言葉を選ばず、直ちに感情的に表現してもらう。(注意:被術者を閉眼させない)
〔実験結果〕
母親を被術者とし往診指導担当者を施術者とした実験結果です。(発言のみ)
- B点 被術者:先生、何処見てるの。
- C点 被術者:うゎ~、怖い。蹴飛ばしそうになっちゃった。
- 施術者:一瞬蹴飛ばされるかと思った。
- A点 被術者:全く怖くないです。
〔指圧研究会・咲晩〕メンバー同士での実験でも動物脳(情動)由来の交感神経過緊張反応を第三者が観察することができるほどの結果を得ました。施術者が無意識に『C点』を避けることも確認できました。
動物脳(情動)由来の交感神経の働きは、事前予告があっても理性脳(情操)でコントロールすることが困難です。思わず瞬間的に身体が反応してしまいます。両者の間柄や個人差による影響も少ないため再現が容易です。実験結果を概説しましたが、各自が必ず実験結果を体験(体感)し認識してください。
〔視点ゾーン分類の1例〕
施術者の視線(視点位置)により、被術者に生じる動物脳(情動)由来の交感神経への影響を影響別に分類しました。但し、これは“単なる1例”であることを踏まえた上で参照してください。
- Aゾーン 安心ゾーン:動物脳(情動)由来の交感神経刺激を最も与えない。
- Bゾーン 不快ゾーン:信頼関係が育たず不安や不快感を与える。
- Cゾーン 危険ゾーン:動物脳(情動)由来の交感神経刺激を最も強く与える。
域値の存在
施術者の視線位置やその変化も、被術者の理性脳(情操)の働きをすり抜けダイレクトに動物脳(情動)に様々に働きかけます。動物脳で無意識に生じた情動は理性脳へフィードバックされ理性にて合理化的適応をおこし情操として固定化しています。さらに、これらはダイレクトに自律神経系へ影響を与えます。
図示した“視点ゾーン”の範囲を数値化を(現時点では)避けますが、このような“視点ゾーン”の存在を認識してください。さらに、AゾーンとCゾーンの間に存在する『域値』に対する認識や対応も重要です。
“視点ゾーン”の数値化は困難とされますが押圧法の理論と技術を用いた情報収集法および施術法により対応は容易となります。さらに押圧法により“Cゾーンの消失”を見ることも稀ではありません。
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