指圧は痛いほど効くのですか
指圧は痛いほど効くのですか
指圧の愛好家を名乗る人達から「最初は痛いけど、そのうち痛みが治まり、その後の快感は最高」とか「痛くなければ受けた気がしない」という言葉を聞きます。「強圧ができるように指を鍛える」と腕立て伏せではなく“指立て伏せ”の訓練等を自慢したり、「指圧師は体力勝負」と言い切る指圧師も少なくないのですから、一般の方に「指圧は痛いほど効く」とか「指圧は痛いもの」と受け止められるのも 当然かもしれません。しかし、これは誤りです。これらは、「指で圧するから指圧」という誤った指圧認識と、「苦痛効果」と呼ぶ、身体の痛みに対する防衛反応の一つが混同された結果です。正しくは、“指圧効果”と“苦痛効果”は別物です。
順に説明しますが、“指圧効果”と“苦痛効果”は別物で、「指圧は痛いほど効く」とか「指圧は痛いもの」という認識を取り去って読まれることをお願いします。
指圧とは“指で圧する”手技ではありません
一般に、指圧は「指で圧するから指圧と呼ぶ」と考えられているようです。確かに現在、指圧師を養成する専門学校においてもこのような認識が広まっています。
しかし、これは誤りです。指圧とは戦後まもなく行なわれた、手技療法の法改正に伴い、国が要求した『医師以外のものが行なって有効な手段であること』という条件を医学的に満たし、法文化された手技(押圧法)の法律的な専門用語です。 法律用語でいう「指圧」は、手技の専門用語で“押圧法(おうあつほう)”と呼び、その他の手技、特に、あん摩の基本手技である“圧迫法”と区別しています。
指圧の起源を問われた時に、法制化の詳細を知らず、指圧を“指で圧する”手技と理解している有資格者と私たちとの間には大きな隔たりが生じます。
指圧を学んで頂くにあたり、指圧認識は重要となります。重複しますが、指圧は“指で圧する”手技ではなく、『医学的有効性』を国が認めて、法制化された独自の手技(押圧法)です。指圧と言う名称が“指で圧する”という、操作法の名称であれば、あん摩の“圧迫法”の一流派にすぎず、あん摩に分類されるべきです。
国が、法文に指圧(教科書の専門用語では押圧法)と言う独自の名称を与えた理由は、指圧(押圧法)があん摩の“圧迫法”とは異なる独自の手技だからです。しかし、有資格者でさえ、諸事情によりこの事実を知らず、指圧は「指で圧する」手法の一種と誤認識し、『医学的に有効』と国が認めた、独自の効果を持った、独自の手技という認識に欠けている現実を誠に残念に思います。
指圧の危険性
指圧が親しまれて、家庭で行なわれることは、好ましいことです。しかし、一般の方々に“指圧は安全”という認識が非常に強いことを専門家として危惧します。
指圧の治療を行うため(指圧師資格の取得)には、専門学校において30科目におよぶ医学及び指圧の専門知識と技術を必須とし、最低3年間学び、卒業して国家試験受験資格を得ます。その上でさらに、国家試験に合格する必要があります。もしも、指圧が無条件で安全なものであれば、指圧師の養成専門学校や免許制度(国家資格)そのものも不要となります。指圧は専門知識と技術を習得し、それらを駆使して、はじめて安全であると認識すべきと考えます。
しかし、矛盾するようですが、指圧は家庭で安全かつ有効に行うこともできます。それは薬の使用と似ています。医療用医薬品の使用には医師の資格が必要ですが、大衆保健薬(市販薬)であれば、家庭でも安全かつ有効に使用することができます。疾病治療は有資格者の専門家に任せ、用法用量を厳守して使用する大衆保健薬と同じように、諸注意を守り、健康増進等に指圧を役立てください。
わが子への指圧の“親子というごく自然で特別な関係の優位性”は、 専門家の前に大きく立ちはだかる壁さえ、容易に取り除き、指圧効果の効率を高めます。
苦痛刺激と鎮痛・快楽効果
身体に苦痛刺激が加わると、身体は苦痛刺激から身を守るために様々な防衛反応を起こします。代表的防衛反応は、脳から放出される「エンドルフィン」別名“最も有名な脳内麻薬”と呼ばれる脳内ホルモンの作用です。このホルモンは、1970年代に鎮痛作用と快楽作用を持つことが多くの実験で確認されています。
なかでも、異常興奮や激痛時に放出される「ベーター・エンドルフィン」の作用には劇的な鎮痛効果があります。試合中に足を骨折し、試合終了まで走り回った有名なサッカー選手がいます。足の骨折を大勢の観客だけでなく、本人にも気づかせなかったのは異常興奮した脳から放出された「ベーター・エンドルフィン」の強烈な鎮痛作用と快楽作用のためです。興奮が冷めれば激痛が襲います。
苦痛刺激に、肩こり患者さんの「最初は痛かったけど、そのうち痛みがひいて、後はスッキリ気持ちがよくなりました」という体験は、苦痛刺激に「エンドルフィン」が放出されたためです。絶対にお奨めできませんが、「エンドルフィン」を放出させるには苦痛刺激を入れればよいのです。手段は苦痛が生じればよいのです。「肩こりだから肩に」というのでなく、苦痛に感じる場所への刺激が効果的です。劇的な速効性もあります。苦痛刺激による「エンドルフィン」の放出は動物実験や医療現場で確認されています。また、「エンドルフィン」の麻酔効果(鎮痛作用と快楽作用)は、麻酔薬の中和剤の投与で消滅することでも証明できます。
指圧(押圧)による鎮痛作用
指圧効果とは押圧法という(手指を使って押す)手段によって生じる独自の効果をさします。主には生体を押圧することによって生じる、生体の自然治癒能力(自己再生力と自己免疫力)の活性化を指しています。先にも説明しましたが、身体は苦痛刺激から自身を守る防衛反応として、鎮痛作用と快楽作用を持つ「エンドルフィン」を放出します。この作用を苦痛刺激に対する“苦痛効果”と呼んでいます。重複しますが、“苦痛効果”を得るためには、手法に関わらず身体に苦痛を与えればよいのです。ですから、指圧によっても“苦痛効果”を得ることはできます。しかし、特殊な状況を除けば、本来の指圧(押圧法)では、“苦痛効果”は不要な効果です。さらに“苦痛効果”には組織の破壊や習慣性が伴いやすい危険な効果です。 本講座では“苦痛効果”に依存する手技は一切使用しません。
苦痛と快痛は異なります
痛みを大雑把に二分すると“苦痛”と“快痛”に分けられます。苦痛とは、辛く耐え難い痛みをいいます。快痛とは、快い痛みのことです。「痛いですか?」と聞けば「痛いけど、気持ちが良い」とか「やめないで」という返事が返る痛みのことです。
原則的には、“苦痛”は悪い刺激で“快痛”は良い刺激なのですが、疾患やその状況により、“快痛”だから良い刺激と一概には言えません。詳細は略しますが、痛みの感じ方は、疾患や刺激法さらに状況等により同一刺激でも異なります。
指圧(押圧法)治療において重要なのは、患者さんが自覚症状として訴える、“苦痛”や“快痛”ではなく、施術者が加圧した指先で判断する他覚的診断にて、加圧部位に筋性防衛が生じているか否かです。患者さんの身体が刺激を拒み、防衛手段として筋肉(骨格筋)を硬くしている(筋性防衛)のに、それを無視しての過剰な刺激は無益有害です。指圧(押圧法)治療は“痛くないほど効果あり”です。 詳細は略しますが、“苦痛”と“快痛”では作用が異なると認識してください。