情動と理性脳(6)
交感神経への刺激
交感神経は“植物的機能”の中で、“エネルギーを発散”する自律機能の調節を担います。前述しましたが、動物脳(情動)からの刺激には直接反応しますが、理性脳(情操)の影響を直接受けることはないため“不随意神経”と呼ばれます。しかし、交感神経へ直接影響を与えるのは動物脳(情動)だけではありません。身体各部(末梢)からの反射刺激は“動物脳(情動)を経由”せず、脊髄から直接交感神経に影響を与えます。これらの多くは『負のフィードバック』を生じます。
動物脳(情動)の緊張と交感神経の緊張とは、混同されやすいので要注意です。前述のように、動物脳(情動)は『正のフィードバック』のみで『負のフィードバック』は存在しません。ですから、交感神経は動物脳(情動)由来の交感神経刺激が消失するまで緊張を続けます。結果“交感神経の過緊張”状態を生みだします。しかし、身体各部(末梢)由来の刺激では、『負のフィードバック』を生じます。
飲酒によるアルコール刺激や入浴による熱刺激はどちらも交感神経を優位にし体表の血管を収縮させます。このときアルコール刺激は“脳(中枢)由来”の交感神経刺激で、熱刺激は“身体各部(末梢)由来”の交感神経刺激です。
“脳(中枢)由来”の(飲酒によるアルコール)刺激は、刺激が消失する(酔いが、醒める)まで、交感神経緊張状態を保ち、体表の血管を持続的に収縮させます。“身体各部(末梢)由来”の(入浴による熱)刺激は、『負のフィードバック』を生じ、体表の血管は拡張します。このことはサーモグラフィーを用いて、それぞれの、前後の体表面温度の変化や分布を測定することで確認することができます。
〔余談〕
“入浴後”の体表面温度をサーモグラフィーで測定すると、表面温度が上昇し、サーモグラフィーの画像は入浴前より『赤く』なります。“飲酒後”の体表面温度を測定すると、飲酒前より体幹の表面温度は下降し、『青く』なります。飲酒後の『体幹表面温度下降』について加筆します。飲酒によるアルコールの刺激で交感神経が緊張し、体表の血管を収縮させます。このため体表からの散熱が減少しうつ熱により深部の体温は上昇します。飲酒者はこのとき“ほてり”を感じます。顔が『赤く』なるのは、うつ熱により深部体温が上昇し、そのままでは“脳温”まで上昇し生命維持にも危険な状態となります。脳温上昇防止のため、顔面周囲の血管を拡張させ“放熱”をおこなうためです。入浴によるサーモグラフィー画像の変化(体表面温度の上昇)は、加熱によって生じた過剰な体温上昇を体表面の血管拡張で放熱させる現象を捉えたもので、血液循環の改善とはいえません。
〔注意〕
“脳(中枢)由来”の交感神経刺激は刺激が消失するまで、交感神経緊張状態を保つ例として、飲酒によるサーモグラフィー画像の変化を挙げ概説しましたが、入浴によるサーモグラフィー画像の例は、加熱によって生じた体温上昇に対応する身体のいくつかの作用が組み合わされた変化です。交感神経への熱刺激変化のみを表したものではありません。皮膚表面へ“一定温度の熱刺激”を加え持続すると、皮膚表面の血管は、収縮と拡張(拡張と収縮)を繰り返します。
副交感神経からの刺激
副交感神経は、エネルギーを蓄える自律機能の調節を担います。副交感神経の興奮は、心臓血管系を抑制し、胃腸の消化吸収には促進的に作用します。末梢血管の拡張、血圧の下降など、食事や安静さらに睡眠に適した状態となります。
副交感神経が動物脳(情動)や理性脳(情操)などの『脳(中枢)由来』の刺激で、興奮した交感神経を抑制し、優位になることはありません。情動と情操の摩擦で瞬時に優位となるのは、常に交感神経です。しかし、『身体各部(末梢)由来』の刺激は副交感神経を興奮させ、交感神経優位から副交感神経優位へと導くことを臨床現場で『教師猫』は確認し、日々実践しています。
自律神経異常は原因が明確となっても、患者自身の意思では制御は不能です。 不定愁訴症候群とも呼ばれる自律神経失調症の症状は、交感神経緊張状態の継続(過緊張)により生じるため、動物脳(情動)や理性脳(情操)あるいは交感神経について考慮され、副交感神経や副交感神経への『身体各部(末梢)由来』からの物理的作用については語られることも少ないようです。
押圧法を駆使することで、自律神経への『身体各部(末梢)由来』からの物理的刺激は自在となります。交感神経や副交感神経への『身体各部(末梢)由来』からの物理的刺激は、動物脳(情動)や理性脳(情操)の状態に関わらず、独自の医学的再現性を発揮します。教師猫の臨床現場からの実態を加え説明します。