第27回 押圧法概論(10)
〔押圧法概論〕と題して気の向くままに書き始めたところ、さしたる内容もなく10回を数えてしまいました。書く方としては、便利なタイトルなのですが読者には、少々迷惑がられているのではと思い始めました。今回は、思いつくままランダムにヒントを書き込んでみます。興味があれば再質問してください。
何処を押せば良いのか
有資格者から教師猫への質問で、最も多いのが『○○病や△△症には、どこを押せば良いのか』です。こんな質問に『どこよりどのように、どのようによりなぜを優先します』とか『人は物ではない』と答えます。
過日、『如何なる疾患にも定まった治療点はありません』と答えたら、浪越徳治郎先生の「自分でできる3分間指圧」に『○○病は、△△部位を押せば良い』と書かれています。教師猫は師匠の著書の内容を否定するのですか?と噛み付かれ、思わず苦笑いをしてしまいました。まさか、有資格者から大衆向けに書かれた内容について噛み付かれるとは夢にも思っていませんでした。さらに、絶句したのは同様の質問をする有資格者が少なくないことです。大衆向けの著作物の内容は著者の技量とは無関係です。
『腰痛』は腰の痛みです。“腕や足”の痛みではありません。しかし、その原因や結果は千差万別です。仮に、年齢や性別、さらに原因や結果が同様であっても生活環境や個人の持つ再生能力も様々です。『腰痛』とは、単に、“腰の痛み”を表す用語です。あえて説明を加えれば、『痛む場所が腰である』とか『腰に痛みの自覚がある』という一情報で、それ以外の情報を我々に伝えてくれる用語ではありません。
思考省略
私たちは日常生活において、数多くの“思考(概念・判断・推理など)省略”を行ないます。特に、何度か支障を生じなかった事象(成功例)に対しては顕著な“思考省略”や“問題意識の排除”を行ないます。例えば、ドアを開ける場合でも、未体験のドアを開くためには、試行錯誤を繰り返しますが、偶然であれ成功すれば、それを学習し、『同類と判断』したドアに対しては思考を省略し、“成功体験”と同じ行動をとる傾向が強くなります。自動ドアと類似のドアの前で、いつまでも突っ立っていたり、『開かない』と判断することがあるのは、“成功体験”により作られた、固定的な観念や見解による、思考省略の結果です。
思考省略には様々種類があります。その都度必要に応じて説明しますが、最初に教育され、それを基に学習し、思考基準となったものほど、思考省略は著しいものとなります。さらに、学術的には全く論拠がない事柄が一般には常識として定着することが多くあります。これらの多くは、学術的専門家が(あまりにも馬鹿馬鹿しく論ずるにも値しないために)関わらない事柄を自称専門家が関わり、大胆に明言することで生じます。これらの固定観念によって生じた思考省略は認識さえも困難となります。
〔備考〕
『血液型と性格』は医学的には全く論拠のないものです。しかし、一般には“まことしやか”に伝えられ、近年では実害が生じ、国会でも取り上げられる程の問題となっています。かつて、干支(主に十二支)を指して『○○年生まれの人の性格は△△』と語られました。これでは、同年生まれの人々の性格は同一となり、小中学校でも学年別に性格が異なることになりますが、その様なことがありえるのでしょうか。
思考省略を最も有効活用しているのがコマーシャルメッセージだと考えます。詳細や実例は省きますが学問や表現の自由が履き違えられ、“疑わしきは罰せず”を最大限に利用しているように思えます。
危険な『正しい情報』
『○○病はどこを押せば良いか』などの対応法を問われると、教師猫は『人は物ではない』と答えます。
近所の飼い犬に関わるとき、その犬の持つ傾向や性質(特に凶暴性)を知ることは危険回避のために必要で、“正しい情報”の詳細な獲得は役立つと考えられます。しかし、飼い主から提供された情報は“危険な『正しい情報』”となりかねません。『頭を叩いても、しっぽを持って吊るしても、反撃はしない』と実演により情報の正しさを証明してくれても、(隣人が真似れば)危険な『正しい情報』となります。
教師猫と〔指圧研究会・咲晩〕メンバーとの間で行い、教師猫が『キャッチボール』とか『リモコン』と呼ぶ臨床施術指導法があります。これは、教師猫が施術経験を持つ患者という最低条件が課せられますが患者情報を基に〔指圧研究会・咲晩〕メンバーに、具体的施術法を教師猫が指示する“システム”です。脳性麻痺児に対する〔指圧研究会・咲晩〕メンバーの往診治療などで、効果を発揮しています。しかし、このとき教師猫が指導する内容は、教師猫がその患者に直接対応して行なう施術法とは著しく異なる場合が少なくありません。さらに、同一患者に対しても担当者が変われば施術法として指導する内容は異なってきます。押圧法による患者対応は、『正しい情報』による危険回避のため、同一患者に対しても担当者が変われば対応法(施術法)を変えます。対応法を継承しないのも、押圧法の特徴の一つです。
愁訴出現部位と施術部位
“愁訴出現部位と施術部位”の関わりについて触れてみます。教師猫的な『愁訴出現部位』の解釈は、単に患者さんの愁訴が出現している部位にすぎません。“肩こりは肩背部、腰痛は腰部を施す”といった愁訴出現部位が施術部位という認識は、大衆向けの著作物などの内容が思考基準となった思考省略の典型例だと考えます。しかし、疾病治療を行なう場合これらの認識をくつがえす必要があるのですが愁訴出現部位が施術部位と信じて疑わない有資格者の認識をくつがえすことは容易ではありません。
有資格者が持つ『愁訴出現部位が施術部位との認識』をくつがえすことが容易ではない理由の一つに愁訴出現部位が施術部位といった思考が一般大衆に受け入れられやすいことがあげられます。さらに、愁訴出現部位は苦痛や疼痛部位であり、これらの部位への施術は〔指圧は痛いほど効くのですか〕で概説した、「ベーター・エンドルフィン」の強烈な鎮痛作用と快楽作用を容易に得られ、これらが治療効果と誤認識されているためです。押圧法では組織の破壊や習慣性が伴いやすい“苦痛効果”に依存する手技は一切使用しません。教師猫の治療室を訪れ、『肩こり』を訴えた患者は延べ数万人になりますが愁訴出現部位(肩背部)を施術して『肩こり』を改善した例など、記憶している限り一例もありません。
押圧法では、自覚症状(愁訴)も考慮しますが、他覚的診断で施術法や施術部位を暫定的に定めます。ここで“暫定的”とする理由は、押圧法独自の『診断即治療』による施術効果の効率を上げるためです。
施術依頼の動機となるのは自覚症状(愁訴)の出現で、患者希望の第一位は自覚症状(愁訴)の消失あるいは軽減です。臨床現場での自覚症状(愁訴)改善度は、臨床家生命の全てに大きく関わります。ですから、臨床現場における自覚症状の改善は最優先課題となります。当然、教師猫もこれらに順じた対応を行ないます。しかし、施術部位は結果部位ではなく原因部位となります。原因除去や緩和による自覚症状の消失あるいは軽減が、押圧法による疾病治療の根幹となっていることを認識してください。
血液の閉鎖循環
血液の閉鎖循環で使用する“閉鎖”という用語を〔押圧法概論(8)〕で述べた、“閉鎖血管系”の“閉鎖”と混同しないでください。開放血管系および閉鎖血管系のいずれも血液は閉鎖循環を行なっています。
体重(㎏)を13で割った数値を、“リットル”に換算することで、人の全血液量を推定することができます。体重65㎏の人で、全血液量は約5リットルとなります。すなわち、体重65㎏の人で約5リットルの血液が体内を循環しています。血液の閉鎖循環とは、血液が閉鎖された体内を循環しているという意味です。
〔押圧法概論(9)〕では、ミクロ的な“物質代謝”や“順路”を概説しました。ここでは、“マクロ的”な血液循環をイメージしてください。“マクロ的”な血液循環とは体循環のことですから概説は不要と考えます。これらのイメージにより、押圧法に独自の理論があることを意識してください。
ブーイングですか・・・。これじゃわからない・・・そうかもしれませんね。
では、ヒントです。局所への血液量の過不足は様々な疾患原因となります。これらの改善は疾病治療に不可欠です。体内を循環している血液の量は、失血がない限り常に一定です。(某所で不足すれば・・・)